第19章
やっぱ、やなやつ!



羽田空港
「急よね。中学校に通うとか言ってたら、今度はイギリスに行くなんて」
麗菜が羽田空港の搭乗口の前で言った。
「いいじゃねえか。俺、片水慎悟はチャック・ノリスで言ったら映画『プレジデントマン』、
ジャッキー・チェンで言ったら『香港国際警察』、ジェット・リーで言ったら『キス・オブ・ザ・ドラゴン』、・・・」
慎悟が麗菜の隣で延々とアクション映画で例えている。
「もうすこしわかりやすい例えないの?」
麗菜がため息をついてから言った。
「両刃、今度からルールブックに、片水慎悟探偵事務所所員は全員アクション映画を見るように、って書いとけ」
麗菜の隣で、目をつぶりながら座っている両刃は黙っている。
「でも、僕は慎悟さんの例えが全てわかりますよ」
リーが慎悟の隣で言った。
「おまえだけだよ、わかってくれるのは」
そう言って慎悟はリーと肩を組み合った。
「でも、なんであんただけで、両刃とリーは慎悟に着いて行かないの?」
麗菜が聞く。
「俺が日本から消えるだけで日本は今の二倍に事件未解決量が増えるってどっかのハゲた政治評論家が言ってた」
慎悟が麗菜に言う。
「だから?」
「俺がいなくなって、両刃とリーまでいなくなったら日本は完璧に大混乱になるんだとさ」
慎悟の言葉に麗菜が頷く。今の日本はそれだけ危険なのだ。
「だから政府は両刃とリーはイギリスに行かせないの」
慎悟はそう言って腕時計を見た。
「そろそろ時間だな」
そう言って慎悟は立ち上がった。麗菜たちも立ち上がる。
「一人一人、弔辞を述べてください」
リーが慎悟にあきらかに間違った日本語を言う。
「何で死んでんだよ」
と、両刃がリーに笑いながらツッコミを入れる。
昨日の朝から、両刃はよく笑うようになり、ツッコミも皮肉としてのツッコミではなくなった。
「両刃」
慎悟が両刃を見て言った。
「俺が帰ってくるまでその笑顔を忘れないでいてくれ」
慎悟はそう言って両刃の耳に口を近づけて、
「自分の気持ちはちゃんと相手に伝えろ。伝えない限りその願いはかなわないからな」
そう言って慎悟は両刃から離れた。慎悟が言っているのは、両刃が麗菜を好きだという気持ちのことだ。
「リー」
慎悟は次にリーを見た。
「おまえには言うことがたくさんある。まず、両刃をしっかり支えてやってくれ。それから一度中国に帰って親に元気な顔を見せること、それからミナ、美樹、美実に就職先を見つけてやってくれ」
慎悟の言葉を聞いてリーの顔が青くなった。
「あの三人に何されたか知らねえけど、これは命令だからな」
慎悟はそう言ってリーの肩をポンポンとたたいた。
「さあ、私には何を言うの?」
麗菜が慎悟に聞く。
「麗菜には・・・」
慎悟は考えた。
あと四ヵ月麗菜と合わないで暮らすのだから、今麗菜との関係を明かしてしまっても大丈夫なのではないかと思っているのだ。
「あ、そうだ!渡すものがあったんだ」
そう言って麗菜はバッグから封筒を取り出して慎悟に渡した。
「なにこれ?」
慎悟が聞く。
「あんたが私に、お父さんと話し合ったほうがいいって言ったでしょ。そのときに、慎悟のところで働いていることも言ったの」
麗菜の言葉に慎悟はビクッとした。
「とりあえず封筒の中身を空けてみて」
麗菜に促されて慎悟は封筒を開けてみた。
中には麗菜の父からの手紙が入っている。
慎悟は手紙を読んでみた。
「慎悟君、久しぶり。
五年前に一緒に暮らさないかと言った時に、君は断ったね。あのときから君は大きく成長したようだが、まだその気持ちは変わらないのだろうか?
麗菜が君の義理の姉だと言うことがわかっても一緒に暮らすことはできないのだろうか?
 麗菜から全て聞いた。君たちがどう出会ったのかや、沖縄の事件のことなど。
急だが麗菜は君との関係を知っている。麗菜は知らないフリをしているが、それは君が隠しているからなんだ」
慎悟はここまで読んで麗菜を見た。
麗菜は不思議な微笑をしている。目は先を読むように促している。
「麗菜が自分から言い出せないから手紙に書いてくれ、といったので書いた。
 もう、互いにウソをつきながらバランスを保つ必要は無いんだ。
慎悟君。最後に私と麗菜のわだかまりを消してくれたことに感謝する。
ありがとう。
イギリスに行ってもがんばってくれ」
慎悟は五年前、一緒に暮らさないかと言ってくれた麗菜の父を思い出した。
優しく慎悟にそう言ってくれた麗菜の父親は慎悟の父親に性格が似ていた。
「知ってたんだ・・・」
慎悟が麗菜に言う。
「ええ」
麗菜が頷く。
「・・・だったら言えよ」
慎悟はそう言ってから麗菜を見て、
「姉さん」
と、言った。
慎悟の目から涙がこぼれた。
初めて心から姉さんと呼べた。ふざけてでなく、五年ぶりに自分と唯一血のつながっている姉に心から姉さんと呼べたのだ。
「慎悟」
そう言って麗菜は慎悟の髪の毛をグシャグシャにした。
「泣いてるんじゃないの。男の子でしょ」
「泣いてねえよ!」
慎悟が目からぼろぼろ流れてくる涙を拭きながら言った。
「明らかに泣いてるじゃない!」
麗菜が大声で言い返す。
「汗だよ!」
「どれだけ嘘つくのが下手なの!」
二人がバカな喧嘩を始めた。それでも、二人はやっと姉弟として会話ができたのだ。
「さあ、もう時間でしょ。飛行機はあなたが乗らなくても飛ぶんだから速くしなさい」
麗菜はそう言って慎悟を入り口に向かせて背中を押した。
「わかった」
慎悟は涙を拭きながら言った。
「行ってらっしゃい」
麗菜の言葉で慎悟は搭乗口に入って行った。


「四ヶ月なんてすぐよね・・・?」
飛行機の発着場が見えるカフェテリアで麗菜が両刃に聞いた。リーは慎悟が、一度国に帰れ、と言ったので飛行券を買いに行っている。
「すぐに過ぎるよ」
両刃が飛行機を見ながら言った。
「慎悟に会いたいと思えば思うだけ時間はすぐに過ぎるよ」
そう言って両刃は麗菜に微笑んだ。
麗菜も微笑む。
「あなたが笑えるようになってよかった」
麗菜もうれしそうだ。
「それから・・・」
麗菜が両刃の顔を見て言った。
「このあいだの電話はごめんなさい・・・」
「ん?」
両刃がよくわからないと言う顔をする。
「ほら・・・、その・・・あなたの目の暗闇が怖いとか・・・言っちゃって」
麗菜が言うまで両刃は完璧に忘れていた。
「さあな」
両刃はとぼけた。どうせ今まで忘れていたのだからとぼけても問題ないと思っているのだ。
「それから・・・」
「あのさ」
麗菜がまだ何か言おうとするので両刃がさえぎった。
「いい加減こういう関係やめねえか」
両刃が麗菜に言った。いつもと言葉使いが変だ。
「どういう意味?」
麗菜が両刃の目を見つめる。
「はっきり言うと、付き合わないか」
両刃は慎悟に言われたとおり、自分の気持ちを言ったのだ。
麗菜はキョトンとしている。両刃に告白されるなんて思っても見なかったのだろう。
「どうだ?」
両刃がもう一度聞く。
「そうね・・・。いいわよ」
麗菜は迷ったフリをしたが本当は喜んでいる。
「レストランで私を守ってくれた両刃、とってもかっこよかったから」
麗菜の言葉に両刃は笑った。そして、テーブルの下でひそかにガッツポーズをしていた。
「あ、でも一つ教えて」
麗菜が思い出したように言った。
「なに?」
両刃がにっこりしながら聞く。
「両刃って結局何歳なの?」
麗菜の質問に両刃は数秒沈黙してから、
「機密事項だ」
と言って無表情になった。


「ありがとう」
慎悟は飛行機のファーストクラスで飲み物をもらいながら言った。
「あとでサインもらえますか?」
スチュワーデスが慎悟に小声で聞く。
慎悟は女性を虜にするようなとびっきりの笑顔で頷いた。
ファーストクラスは快適で慎悟はすぐにでも眠ってしまいそうだった。
慎悟は窓から外を見た。もう空港はありのような小ささだ。
「じゃあな、日本」
慎悟は思った。
「俺が帰って来る時までにもっと平和になっていろ。約束だ」
慎悟はそう考えてさっさと寝ることにした。


数日後、片水慎悟探偵事務所は4ヶ月間閉まることになった。片水慎悟がいないのでは探偵事務所は成り立たないからだ。ただし、事件が起きれば、両刃はどこへでも行くつもりだった。
その4ヶ月の間にリーは二週間ほど、中国の藩陽市に戻った。
両親はリーが片水慎悟探偵事務所の下で働いていることを知ってとても喜んだ。
両刃と麗菜は今、とても清い付き合いをしている。両刃は数日慎悟の家に泊まった。理由は麗菜と一緒にいたいからと、両刃の家にミナ達がいるからだ。
両刃は麗菜との関係を深くしながら、ミナたちの就職先をどんどん探している。三人ともやりたいことははっきりしているので、就職先はすぐに決まりそうだった。
美実の就職先探しは木古内も手伝っている。木古内は美実と付き合い始めた。二人ともいい感じでこのままゴールインしそうだと両刃は言っている。
そしてビート、風上創次は現在普通に暮らしている。ビートになることはやめ、JHSの一員として、教師の板倉と学校で楽しくしている。
慎悟はイギリスで、イギリスと日本の将来のためといわれるとても大事な書類を守っている。慎悟は4ヵ月後、麗菜に会ってもう一度、姉さんと呼ぶのを楽しみに毎日を過ごしている。
そして、慎悟の部屋にある額が三つになった。

「一人でも多くの人を幸せにするために生きている」

「信じるものがあり、守るべき人がいる。
                 だから戦う。それだけだ」

そして、
「誰一人守れない人間はいない」


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