第19章
やっぱ、やなやつ!



翌日 AM 6:45
ガチャリ
麗菜が慎悟の部屋の一つ目のドアを開けた。
慎悟が麗菜に最初のドアのスペアキーをくれたのだ。
麗菜は二つ目のドアをノックして番号を打ち込んだ。
64571079411921688・・・
ガチャリ
麗菜が二つ目のドアを開ける。
「慎悟、入るわよ」
そう言って麗菜は入った。
慎悟の部屋は麗菜の部屋の半分ほどの広さだった(ちなみに麗菜の部屋は12畳だ)。
部屋の一辺には備え付けの本棚があり、CDが数十枚と本が置かれている。本は推理小説やから研究論文まで置かれている。
一辺はクローゼッドでその向かい側にベッドがある。枕元にはテレビとコンポが置かれている。
もう一辺に窓があり、机が置かれている。机の上には一枚の書類と折り紙の鶴が3羽いる。
ベッドには慎悟はいなかった。
「こんな朝早くにどこ行ったのかしら?」
麗菜は一日休暇をもらおうと思って慎悟に言いに来たのだ。
休暇の理由は、久しぶりに父親に会いに行くためだ。
麗菜はため息をつくと慎悟の部屋を出た。


麗菜が慎悟の部屋に入る約1時間前。
慎悟が事務所の2階の両刃の部屋の前に立っている。
周りを見回してからそっとドアのノブに触れる。が、
「なにをやってる?」
両刃が慎悟の後ろに立っていた。
「おまえどこにいた?」
慎悟が周りを見回した時には、周りには誰もいなかった。
「お前はやっぱり忍者だったんだな?」
両刃は答えずに両刃の部屋のドアを開けた。
「入りたいなら入ってくれ」
そう言って両刃はドアを開けたまま入っていった。
「おっじゃましま〜す」
慎悟はそう言うと部屋に入った。
両刃の部屋は暗い。
まずカーテンが黒だ。壁紙は灰色で電気が点いてないから床は何色かわからない。
「そこの電気をつければ見えるだろう」
両刃はそう言って、暗い中まっすぐとデスクに向かって椅子に座った。
「あいにく俺は夜行性なんだ。これくらいの暗闇で何も見えないことは無いよ」
そう言って慎悟はドアを閉めた。
「で、わざわざ朝っぱらから俺の部屋に来たのは何の用だ?」
両刃が机の上の紙に何か書き始めた。真っ暗だが何を書いているのかわかるのだろうか。
「昨日の報告。ビートは逃がした」
慎悟の言葉を聞いて両刃は慎悟を見たが、すぐに机の上の紙に目を戻した。
「それで少しでも多くの人が幸せになるんならいいんだろ?」
両刃はそう言って耳を澄ませた。
「客が来る予定なのか?」
両刃が聞く。
「昨日の夜、ビートを逃がしたことを政府の人間に調査報告書として送ったら今日の午前六時に来るってさ」
両刃が首をひねる。
「何を好き好んでこんな朝っぱら来るんだ?」
「さあ」
慎悟は首をひねって両刃の部屋のドアを開けた。
ドアの前では今にも政府の人間がノックしようとしていた。
「隣の部屋で話しましょう。中で待っていてください。すぐにおいしい紅茶をお出しします」
「結構です。私は茶飲み話をしに来たわけではありません」
そう言って男は慎悟の部屋に入って行った。
「なんで政府の人間ってどいつもこいつも面白みがないのかな?」
慎悟の文句に両刃が苦笑いをする。
「で、ほかに用は?」
両刃が聞く。
「ああ。栄子さんのことなんだけど・・・」
慎悟が言うと、両刃はため息をついて、
「栄子のことは忘れるよ」
そう言って両刃は立ち上がった。
「五年前から変わってない家具などの位置はすべて変えて、栄子は俺の心の中で生かすことにした。俺は、いつまでも過去に縛られているから誰も守れないのかもしれない」
そう言って両刃は慎悟の前に来て言った。
「だからお前も、麗菜も栄子のことは口にしないようにしてくれ」
両刃の言葉に慎悟は頷いた。
「よかったよ、お前が俺の助手でいてくれて」
そう言って慎悟は笑った。


「イギリスですか・・・」
政府の人間が言った言葉を慎悟が反復する。
慎悟が政府の命令に従わなかったため、政府の人間が慎悟をイギリスに出張を命じたのだ。
ただし、出張と言うのはあくまで表向きで、はっきり言えばドラマ等でたまに見る会社の左遷みたいなものだ。
「急ですね」
慎悟が弱々しく言う。
「君が政府の命令どおりに動かないのなら国外の勤務をさせる」
男はそう言って封筒を慎悟に渡した。
「そのなかに向こうでやる仕事、宿泊場所その他諸々の詳細が書いてある」
そう言って男は立ち上がった。
「私としては片水慎悟には日本でがんばっていて欲しいのだが仕方がない。出発は明日。もし命令に従わないのなら今の地位は全てなくさせてもらいます」
慎悟は急の話に動揺しているので何も言えない。
「期間は?」
両刃が聞く。
「四ヶ月」
男はそれだけ言った。
つまり二月までイギリスで過ごすということだ。
「ビートの正体を明かさないだけでイギリスまで飛ばされるのか?」
両刃が反論するが、
「正体を明かさないからではない。政府の命令に従わないからだ」
男はぴしゃりと言うと慎悟と両刃に頭を下げて出て行った。
「お前はこの事態を予想していなかったのか?」
両刃が慎悟に聞く。
「ああ・・・」
慎悟は急の左遷に戸惑っている。
「今、俺は、何でビートを逃がすなんてバカなことをしたのかと怒鳴りたいところだが」
そう言って両刃は慎悟の目をまっすぐ見据えた。
「さっきも言ったが、少しでも多くの人を幸せにするためにしなければならなかったのなら仕方がない」
そう言って両刃は笑った。
慎悟にとって両刃の笑いを見るのは五年間で初めてだった。
愛想笑いや、いやなやつが見せるような憎たらしい笑いは何度となく見てきたが、まだ小さい子供の天使のような、そして濁りと屈託がない笑い方をした両刃を、慎悟は初めて見た。
「おまえはちゃんと笑えるんじゃないか」
慎悟も笑いながらそう言った。が、両刃はこう答えた。
「おまえがいなくなるからだ」
・・・やっぱりやなやつだ。



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