第9章
指令


 慎悟は自分の家のリビングで学校から借りてきた「よくわかる幸福な名前の付け方」を読んで、いろんな人の名前の運勢を調べてみている。
 この本はすぐれもので、何年ものデータを基に誰でも姓名判断ができるのだ。
 麗菜とリーは慎悟のそばでトランプの『スピード』をしている。ただしトランプを2セットつかって104枚使ってやっている。
『スペード』は反射神経を鍛えるにはなかなか使えるそうだ。麗菜とリーはすでに1時間やっていて、徐々にスピードが速くなってきている。
慎悟は自分の姓名判断で、本に載ってある内容と自分の人生が書いてあることがまったく同じなので驚いた。
「うそ!また負けた!!!」
麗菜が手の中に残ったトランプを見つめていった。
慎悟は麗菜の手の中に残った大量のトランプを見ながらため息をついて、
「リー、少し手加減してやれよ」
と言い、今度は両刃の姓名判断をし始めた。
「なんでかしら。同じカードしか持ってないのにどちらかが勝つなんて」
麗菜が不満ありげに愚痴をこぼし始めた。
「それより慎悟さん?捜査しないんですか」
リーがトランプを高速できりながら言った。
「ん・・・。だってめんどくせえんだもん」
そう言いながら、両刃の姓名判断で、人生運は恵まれるが、社会運はあまりよくないことについて考え始めた。
こういう場合、いい妻子を持ったりして生活は充実するが、社会面の会社などでは悪い上司や部下などと仕事をすることになり、いいことが少ないのだ。つまり、両刃は、いい生活はおくれているが、会社、つまりこの片水慎悟探偵事務所で上司や部下に恵まれていないのだ。
『あれ・・・』
慎悟の頭の中に疑問符が浮かんだが、とりあえず考えないことにして今度は麗菜を占おうとして、紙に麗菜の名前を書き始めた。
「慎悟、子供でもできたの?」
麗菜がいきなり変なことを言ったので、慎悟は『麗』の字を書き間違えた。
「なんだよ、その質問は・・・」
「普通、そういう本は子供ができた親が読む本よ」
「別に子供ができたわけじゃねえよ。相手もいねえし」
「麗菜さんは違うんですか?」
リーが質問をする。その質問に慎悟と麗菜は一瞬考え込んだ。
考えた内容は、こういう姉弟は結婚ができるのだろうかということだ。
「どうしました?」
リーが固まってる二人に声をかけた。
慎悟と麗菜が同時に否定しようとした時、
ビーーー
チャイムが鳴った。
慎悟が慌てて玄関に出て行った。
「私たちは同棲してるカップルじゃないのよ」
麗菜はリ−にそう言いながら笑った。
「わかってます」
リーもそう言って屈託の無い笑顔を返した。
「さあ!延長戦よ。次は絶対に勝つから!」
そういって麗菜はトランプを切り始めた。
二人が『スピード』を始めようとした時、玄関から慎悟の怒鳴り声がした、客に対して怒っているようだ。
リーと麗菜は顔を見合わせると、玄関に行ってみた。
玄関では背広を着た男が慎悟に一枚の紙を見せている。
慎悟が、後ろから見ているリーと麗菜に向かってあっちへ行けと手を振る。
リーと麗菜がリビングに戻ってすぐに慎悟が戻ってきた。誰から見てもイライラしているとわかる。
「今の人は誰?」
麗菜がもう一度トランプをきりながら聞いた。
「政府の役人」
慎悟はそう言って役人からもらった紙をリビングのテーブルに置いた。
「見てもいいですか?」
リーが聞くと慎悟が頷いた。
内容は、
「       指令状
先日の謎の少年、ビートを逃がした件の始末として捜査をお願いする。
一週間前にビートが現れたダンスバー
『クラブ EVERYTHING』
へ潜入捜査をお願いする        」
と、とても簡潔に書かれていた。
「政府の役人は頼むだけで何もしないの?」
麗菜が紙を見ながら聞いた。
「やるべき事はやってるよ」
慎悟は今すぐにでも紙を破りたいと言う顔をしている。
「やるべき事はちゃんとやってる。でもあいつらの手に負えないやつなんだよ。ビートってのは」
慎悟はそう言ってリーを見た。
「リー、明日この店に行くぞ。この店は開くのが夜七時だ。できるだけヒップホップな格好をするんだ」
「ヒップホップですか?」
リーが眉間にしわを寄せる。
「どうした?」
「そんな服は持ってません」
リーの言葉に慎悟が頭をおさえる。
「じゃあ買いに行きましょうよ」
麗菜が楽しそうに言った。
「何で楽しそうなんだよ・・・」
慎悟が聞いた。
「私が前の仕事をしていたときによく通っていたダンスバーなのよ。仕事仲間とよく通ったわ」
「で?」
慎悟がよくわからないと言う顔をした。
「私も連れて行ってよ。もしかしたら昔の仕事仲間に会えるかもしれないから。お別れも言えないままこの仕事始めたから、もし会えるなら一言言いたいのよ」
「そうか。それならいいよ」
そういって慎悟はテーブルの上の指令状をきれいにたたんだ。慎悟にとって、麗菜が関係したら、その指令はとても大切になるのだ。
「麗菜のためになるならどんなつまらなそうな指令だってみんなにとっての宝さ」
慎悟はそう言ってウィンクをすると自分の部屋に入っていった。
「本当に付き合っていないんですか?」
リーが、慎悟の今の言葉とウィンクを見て麗菜に聞いた。
テレビがまた高速道路交の通止めの知らせをしていた。



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