PM 6:20 「慎悟、調べがついた」 仕方なくホテルに戻り、慎悟は両刃に工場にいた連中を捕まえるように指示を出したが、すでに逃げられていた。仕方なくあの薬を押収して、いったい何なのかを調べた。 「警察の調べによると、あれはただの薬品じゃない。爆薬以外の使い道は無いとさ」 両刃がそういうが慎悟はロビーの椅子に座って上を見ていて聞いているかどうかわからない。 「あれには水素が大量に入っている。泡がたくさんあっただろ?あれが水素だ」 「慎悟さん聞いているんですか」 ぺらぺらとしゃべっている両刃にリーが聞くが、 「大丈夫。あいつは寝言で会話ができるやつだから」 リーにはこれが冗談なのか本当なのかわからなかった。両刃の性格を考えて、月島が誘拐されたのに冗談を言うような人じゃないと判断し、本当だろうと、とりあえず思った。 「慎悟。水素にはどういう性質があるか知ってるな?」 慎悟はじっと上を見ている。 「いいか、それで・・・」 「どういう性質があるんですか?」 リーが聞いた。 「水素に火を当てると瞬間的勢いよく燃えるんだ」 両刃がため息をつきながら言った。そのため息は、そんなことも知らないのかと、リーをせめているように聞こえた。 「あの液体の中にはその水素の性質を三倍ほどにする気体が溶けている。つまりどういうふうになるかわかるか?」 慎悟はまだ上を見ている。 「どうなるんですか?」 リーがまた聞いた。 「今度おまえには中学生の科学でも教える必要があるな」 慎悟がまたため息をついていった。 「そうすると大規模な爆発がある。一リットル東京タワーは消える。同じ量で計算すれば、都庁も消滅することができるだろう」 「まさか・・・」 リーが信じられないという顔をしていった。 「でも・・・、そんなものを作ってどうするんですか?」 リーが両刃に聞いた。 「それをこいつは考えているんだよ」 両刃が慎悟をあごでしゃくった。 「どうだ、慎悟?」 両刃が慎悟に聞いた。 「・・・」 慎悟は黙っている。 「慎悟?」 両刃がまた聞いた。 「・・・紅茶」 慎悟がそれだけ言った。 「・・・?」 リーが首をひねる。 「紅茶がほしいいんだよ。リー、悪いがフロントに頼んで持ってきてくれるか」 両刃がそういうとリーはフロントに向かった。 「慎悟、とりあえずわかっているんだろうな?」 「ああ」 慎悟は答えた。そして両刃を見る。その目は何かを鋭く見つめている。 「慎悟、おまえは何を考えている」 両刃は慎悟の目を見て言った。 「今日の会談はどうだった?」 慎悟がいきなり聞いた。 「会談っていうのは、今日来た大統領とのか?」 「ほかに会談があるか?」 慎悟が目を細めた。 「今日の会談は最悪だった。今日では話は決まらなかったけど、沖ノ鳥島を巡って何度も衝突がありそうだ」 「つまり?」 「こんな小さな事なのに戦争が始まるかもしれない。何人もの政治評論家はそう言っている」 慎悟はそれを聞いてため息をつくとまた上を見た。 リーが紅茶を持って戻って来た。 「リー」 慎悟が紅茶を一口飲んで言った。 「はい」 「おまえはコーヒーを入れるのが上手だ」 慎悟がいきなり言った。 「はあ・・・」 「だから今度は紅茶をいれる練習をしろ」 慎悟はそういってポケットから財布を出して一万円札の束を出した。 「リー。これで近くのスーパーでも何でもいいから紅茶の葉を大量に買って来い」 「はい?」 「それでオレがおいしいと言える紅茶を作れ。期限は明日の夕方だ」 「こんな時にそんなことをやっていていいんですか!?」 リーが大声を出した。フロントにいた人全員がリーを見る。 「いいか、リー」 慎悟が立ち上がってリーを落ち着かせようと肩をつかんで言った。 「この事件は感情が絡みすぎている。オレはそんな時に紅茶を飲むんだ。それも最高においしい紅茶をな」 リーが首をひねる。 「話の筋が見えないんですけど・・・」 「つまり、この事件を解決したときにオレが正常でいられるかどうかはおまえの紅茶にかかっている」 リーがまた首をひねる。どこが「つまり」なのかよくわからないのだ。 「そういうことだ」 「でも・・・」 リーが反論しようとすると、 「いいから行け!」 と怒鳴られた。ロビーにいた人全員が今度は 慎悟を見た。 リーは何か言おうとしたが、ホテルから出て行った。 「慎悟。オレは今までお前のやることには一切口出ししなかった」 慎悟が小さい声で「ウソだ」と言った。 「だが、今回は口を出させてもらおう。なんでリーを外に出したんだ?」 「そのことについては後で言う。今すぐ出かけるぞ」 「出かけるってどこに?」 「那覇空港の前。アメリカ軍の屯所だ」 「慎悟。ここにいったい何の用があるんだ?」 両刃が那覇空港の前にある、アメリカ軍の屯所の前で言った。 「黙って着いて来い」 慎悟はそう言ってなんのためらいもなく屯所に入っていった。 入ってまず受付がある。ためらいも無く入って来た慎悟に受付のアメリカ人が変な目で慎悟を見る。 「Excuse(すみ) me(ません。).Where(飛行機) is(課) the(は) section(どこに) of(あります) plain(か) ?」 慎悟が見事な発音でアメリカ人に聞いた。 「目的は?」 男は日本語をしゃべれた。 「ヘリを貸してほしい」 この言葉で男がゲラゲラと笑った。 「日本人のガキが何を言うかと思ったらそんなことか」 男が慎悟に顔を近づけて言った。 「許可があるか?」 男がニヤニヤしながら言った。 当たり前だが一般人がアメリカの屯所からヘリを借りることはできない。最低でも、その屯所の所長の許可が必要だ。 「所長のところには今から行こうと思っている」 慎悟が真面目な顔でそう言うと男はまた笑った。そして着いて来いと手で示し、スタスタと歩いて行った。 「慎悟、お前は何を考えているんだ?」 「それは後で話す。おまえはあの男に頼んでヘリを見せてもらえ。人を搬送できるやつだ」 階段を上って所長室に着くと慎悟が両刃を見て言った。 「もしかしたら何人もの人が死ぬかもしれないんだ」 慎悟はそういって所長室に入って行った。 男はそれを見ると両刃を見た。 「あんたはどうするんだ?」 「飛行課に連れて行ってもらおう」 「借りられるかもわからないのにか?」 男が両刃を見下したように見る。 「あいつは交渉の天才だ。良いから連れて行け」 両刃が男の数倍見下したような目で見て言った。 所長室は豪華だった。高そうなデスクに高そうな椅子。金に糸目をつけていないようだ。 「Can(日本語) you(を) speak(話せ) Japanese(ますか)?(?)」 慎悟がとりあえず社長に英語で聞いた。 「もちろん」 デスクで書類を片付けていた所長が目を上げた。子供が所長室に入って来たことは無かったので所長は立ち上がった。 「何か用かな?」 所長は小学生だとでも思っているようだ。 「ヘリコプラーを貸していただきたい」 慎悟がそういうと所長は目を丸くした。 「ヘリコプターを?」 「ええ」 「何に使うのかな?」 「少しでも多くの人を幸せにするためです」 慎悟が所長の目をまっすぐ見ていった。その目には一点の曇りも無かった。 「それはやらないと誰かが傷ついたりするのかな?」 「傷つくだけじゃすまないかもしれません。死ぬかもしれません」 慎悟の言葉に所長は目を閉じた。 「どういうわけか教えてもらえないかい?」 「内密です」 「それじゃあ残念だけど貸せないね」 所長が言った。 「これは日本人としてのお願いです」 その言葉で所長の耳がピクリと動いた。 「どういうことかな?」 「アメリカ人のあなたに、日本人の代表としてお願いなんです」 「それはなにか大変なことになるのかもしれないのかい?」 「あなたが沖縄で戦争をすることになるかも知れません」 所長の目が大きく見開かれる。 「貸していただけないでしょうか」 「わかった・・・」 所長が言った。 「貸しましょう」 「あとで代金払いますから、ご心配なく」 慎悟が笑ってそういった。 「それからもう一つ、聞きたいことがあるんですが・・・」 |