第7章
番外編
月島麗菜の日記(掃除編)


麗菜が足でトントンと床を叩いている。
私、月島麗菜は今、探偵の片水慎悟に養ってもらっている身。ただし、慎悟の身の回りのことはほとんどやらされている。
まあ、義理の姉弟でもあるから別にいいんだけど。
でも・・・。慎悟と私はウソをつきながら生きている。慎悟は、私と何のつながりも無いと言っているし、私は、姉弟だということを知らないって事になってる。
お互いウソをつきあって成り立ってるって言うのは・・・。う〜ん、なんか悲しいのよね。
 まあ何で私がこんなこと言っているのかというと、両刃から、
「今回の事件はネタが少なそうだから毎日の冒険を何か書け」
とか言われたから。
 私にはまったく意味がわからないんだけど、ネタって言うのは寿司ネタなのかな?
まあとりあえず毎日の冒険を書くことになったんだけど冒険なんかしてないのよね、私。
そりゃまだ25歳で若い歳だって言われるかもしれないけど(確実に言われるけどね)この環境だと出会いが無いから恋愛もできないし、なにもやることも無いから掃除くらいしかない。だから家の中はすごくきれい。家の中は全部きれいにしたから1階と2階の事務所の中も掃除した。
 ここからが私の冒険の始まり。
家の中と事務所の中でどうしても掃除できない場所が二つあるの。一つは事務所の2階の両刃の部屋。一度入ろうとしたら両刃に見つかって、入らないほうがいい、って言われた。どういう意味なのか聞いたけど教えてくれなかった。まあ根が変な人だから仕方ないかもね。女性不信で無口でとりえの無いような人だけど。でもかっこいいことは認めてあげている。
 そしてもう一つが家の中の慎悟の部屋。三つある部屋のうち、慎悟が二つ使っている。一つはパソコンだらけの仕事部屋。部屋の中にはパソコンが四台とキーボードが四台、それにプリンタが三台ある。だから部屋の中は配線だらけ。この間掃除してたら配線でつまずいてこけた。
部屋の中は何を好き好んでか、薄暗い。あんな暗い部屋でパソコンをいじってたら目が悪くなって仕方ないんじゃないかな、って私は思う。
 そしてもう一つの部屋。この家で暮らし始めて一ヶ月たつけど、まだ一度もこの部屋に入ったことが無い。ここは慎悟のプライベートルームだから入っちゃだめなんだって。慎悟に、入れて、と言ったけど入れてもらえなかった。なぜか私を拒んでるみたい。この辺は両刃と似てる部分がある。
だから慎悟が中に入ってから何をしているかまったく知らない。何度か入ろうとしたんだけど鍵が特殊で何度かピッキングしたんだけど開かなかった。
 そんな理由でまだ一度もこの部屋に入ったことが無い。
 でもそれも今日でお終い。
 今日慎悟が朝早く学校に行こうとして鍵をテーブルの上に放り出したまま行っちゃった。慎悟は探偵だけど、かなり無用心なことがある。
 そして、私は家の一通りの掃除をした後にこの部屋の鍵を開けて部屋の中に入った。
なのにねぇ・・・・。
 ドアを開けたらもう一つドアがあった。
そしてそのドアも鍵がついていた。番号式の鍵らしくてその隣に鍵穴がある。たぶん慎悟はもう一つ鍵を持っていて、その鍵をなくした場合は番号を打ち込んで入るのだろう。
 つまり私のような侵入者はもう一つの鍵を持っていないので番号を打ち込むしかない。もちろん番号は知らない。
 それで私もあきらめたわ。だって入れないんじゃ仕方ないもの。
で、戻ろうとした時に最初のドアが閉まったの。ついでに開かなくなっちゃって。ついでのついでに最初のドアも内側には番号キーがついてたの。
 つまり番号を突き止めないと最初の部屋から出られないわけ。
 でも番号キーって言うのがなんと、17桁。番号は1から9までのボタンがある。
鍵は一つしか持ってなくて、最初の鍵は合わない。仮に数字で全ての組み合わせを打ち込んだとしても・・・・まあ、時間がかかるわね。
 とりあえず努力はする。なにもしないで失敗するより、なにかをして失敗したほうが納得がいく気がする。それに私にだって意地がある。大学行って世間の荒波に飲まれて娼婦までやったことのある私にできないことは無い!

 著者の言葉を入れさせてもらって悪いが、今の麗菜の言葉は記載していいのだろうか?まあ、あいつに筆をとらせた俺が馬鹿だったといえば馬鹿だったのだが・・・。

 麗菜が足で床をトントンと叩いている。
 「そうよ!まずはとにかく数字を打ち込むのよ!」
麗菜はいきなりそう声を上げると、適当に数字を打ち込み始めた。
57826739577530924・・・。
19287984374598393・・・。
12345678923456789・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
一時間が経過した。
麗菜の指はすでに痙攣(けいれん)しかけている。だが開く気配は一向に無い。
64571079411921689・・・。
最後にこれだけ打ち込み、開く気配が無いのを確かめてから座り込んだ。
指を軽くマッサージしながら腕時計を見てみる。
12:45
そろそろ慎悟が帰ってくる時間だ。
麗菜はあせり始めた。理由は慎悟に見つかるから。そしてまだ昼食を作ってないからだ。
麗菜は必死で頭を回転させながらボタンを押し始めた。
あせって最初のドアの鍵を落としたが、音がしなかった。
麗菜は不思議に思って鍵を見てみる。
鍵には巾着がくっついているのだが、その巾着がクッションになって音がしなかったのだ。麗菜は鍵を拾って思い出した。
この巾着は慎悟と同居を始めて一週間ほどした時に縫ってくれと頼まれて縫ったのだ。そして縫った後、慎悟は巾着の中に大切そうに折りたたんだ紙を入れていた。
 麗菜は巾着を開けてみた。なかにはまだ紙が折りたたまれて入っていた。
 麗菜は紙を出して開いてみると、文章が書かれていた。
『大化の改新が無かったら今の世界はないのかもなぁ・・・。ってか、最近俺は平城京と平安京の区別つかなくなってきたんだよね。でも俺が歴史上ではかなり源頼朝を尊敬してるよ。鎌倉幕府を起こしたし。でも!歴史上で一番大きかった出来事はやっぱり名誉革命だよ』
「・・・」
 麗菜は何も言えなかった。この文章はいったい何を伝えようとしているのかまったくわからない。数秒間じっとしてからこの文章が暗号で、番号キーを解くための手がかりなのだと気づいた。
「そっか・・・」
 麗菜は5分ほどじっとしてからある番号を打ち込んだ。
64571079411921688・・・・、ガチャ。
 鍵が開いた。
「なるほどね・・・」
麗菜がそう言った時麗菜の後ろでノックの音がした。
「麗菜、ただいま。掃除終わった?」
慎悟が帰ってきたのだ。
「開けてくれない?かばんが重たいんだ」
麗菜はいないフリをして黙っていた。
「あのさ、一応言っとくけどその一つ目の部屋は監視カメラついてんだ。だからいないフリしても無駄だよ」
慎悟がそう言うと麗菜はしぶしぶ一つ目のドアに番号を打ち込んだ。
ドアが開くと慎悟がタオルで顔を拭いていた。
「おつかれさま。ちなみに監視カメラがしかけられていたなんていうのはウソだから?」
慎悟がタオルで化粧をきれいに落として言った。
「よく私が中にいるってわかったわね」
麗菜が慎悟の簡単なウソにだまされて怒りながら言った。
「俺が帰ってきたと同時に麗菜が鍵を開けて部屋に入ったんだ。俺はリビングに入ったところでドアが勝手に閉まるのを見たよ」
「じゃあ私が1時間ずっと番号押してるのを見てたの!?」
「ああ。正確には見てないけど」
慎悟はにこやかに言うが、麗菜が右手を振りかぶったのでヒュッと後ずさった。最近、麗菜は慎悟の訓練によって針砕流にみがきがかかってきたのだ。
「でも暗号を解くのにはたいして時間がかかってなさそうだったね」
「言っとくけど私は大学まで出てるのよ。あんな歴史の問題できないわけないじゃない」
そう言って麗菜は巾着の中に入っていた紙を慎悟に見せた。
慎悟はその紙をうれしそうに受け取った。
「いつか麗菜が掃除したいときのために書いておいたんだけどさ」
「簡単すぎたわよ」
「そうか?」
「そうよ。
 文章全体を見ると全て歴史上の大きな出来事とかが書いてある。それでその出来事が起こった年号を文章の順に打ち込んでいく。つまり・・・、
大化の改新・・・虫のご(645)とく   蘇我倒す
平城京・・・・なんと(710)みごとな  平城京
平安京・・・・・なくよ(794)ウグイス 平安京
鎌倉幕府・・・・いい国(1192)作ろう  鎌倉幕府
名誉革命・・・・広場は(1688)歓声   名誉革命
よって、64571079411921688が求められる」
麗菜の説明に慎悟は拍手した。
「完璧だよ。疑問なのは大化の改新の覚え方だね?」
「中学の時の先生が言ってたの」
「ふ〜ん」
慎悟は、麗菜が中学校のとき覚えたことをまだ覚えているので少しうれしくなった。
「なあ、二次関数できる?」
「え?なんで?」
「いいから、できる?」
「多分できると思うけど」
「そっか。じゃあ掃除は後にして飯の準備をしてくれ」
慎悟が気持ち悪いくらい明るい笑顔をして言った。
麗菜は不信に思いながらも料理をし始めた。



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