「あれがアメリカの大統領の乗っている飛行機だ」 朝、空港の滑走路で両刃が月島の横に立って飛行機を指差した。 「あら、そう」 寝不足の月島は少し不機嫌だ。 「自分の寝不足を人に当たるな」 「悪いのはあの刑事さんよ。夜中まで人をバーで足止めさせるんだもの」 「足を止めたおまえもおまえだがな」 月島が両刃をにらむ。 「来るぞ」 黒い背広で身を包んだ慎悟が言った。総理の前のタラップに飛行機が止まった。 大統領が降りてくる。 総理が英語で挨拶する。 「暑い」 慎悟が言った。 慎悟は木古内から背広を着ろと言われてきたのだが黒い背広しかないのだ。沖縄で黒い背広と言うのはつらいものだ。 「暇だし」 「いきなりなんだよ、おまえは」 両刃が小さく言う。 「だって、波乱も起きないしさ」 「起きて欲しいか?」 「無いよりはましだ」 「不謹慎なこと言わないでよ」 月島も小さい声で言う。 「あー!なんか波乱おきてくれ無いかな・・・」 慎悟がそう言った時、その言葉を待っていたかのようにリーが現れた。 「慎悟さん、両刃さん、麗菜さん。勤務をはずれて別の捜査にあたるように木古内さんから命令が来ました」 「別の捜査?」 「はい」 両刃の言葉にリーがうなずく。 「行こうぜ。波乱が起きたのかもしれない」 そういって慎悟はさっさと空港の中に入っていった。 「行こう」 両刃は月島にそういうと慎悟に続いた。 「別の捜査って何だ?」 慎悟が空港の中を歩きながらリーに聞いた。 「一昨日のあの男が乗っていたバイクが駐車場にあるんです」 「やつのバイクだという証拠は?」 「ボクが確認しました」 「なるほど」 慎悟たちは空港をでると駐車場に向かった。 「あれです」 リーが指差す方向には確かに一昨日のバイクがある。そしてそのバイクのそばにはあの男がいた。黒いヘルメットに黒いライダースーツ。 「慎悟!」 両刃が叫んだが慎悟は聞いていなかった。一昨日の頭痛がまた襲って来たのだ。 「くそ・・・」 慎悟が頭を抑えながら言った。 「両刃、車を持って来い。追いかけるぞ!」 両刃は風のようなスピードで駐車場の車の群れの中に入っていった。残された慎悟たち三人は駐車場の入り口の影に隠れる。 「慎悟さん、バイクが出てきます」 リーが駐車場をのぞきながら言った。 「両刃は?」 「来ます」 その瞬間バイクが出てきた。そしてバイクが10メートルほど進むと赤いフェラーリが出てきた。ドアが開いて両刃が顔をだす。 「早く乗れ!」 慎悟たちが三人が乗ると両刃はいきなりアクセルを思いっきり踏んだ。すぐにバイクに追いつく。 「なんだよ、この車?」 慎悟が頭を抑えながら両刃に聞いた。 「木古内のレンタカー」 両刃は少しバイクと余裕を持って走った。 「いいのかな・・・。勝手に借りて」 「車が無いんだ、仕方が無い」 両刃は以外に大胆だった。 「ここは・・・」 慎悟たちはバイクが止まった場所から少し離れた場所に車を止めた。バイクが止まったところは三階建ての工場だった。 「星覇化学薬品工場・・・」 実はこの工場、一年前に爆発事件があり閉鎖された工場だ。そのニュースは日本中に流れた。爆発はこの工場で作られた薬品を置いておく倉庫で起こった。 表向きにはここは普通の化学薬品を作っていたのだが、噂では新たな爆弾を作っていたという。噂ではなく本当なのでは無いかと政府が確かめたところ確かにそれらしきものが見つかったが、証拠にはならず、この工場が閉鎖されて終わったのだ。 「どう思う?」 両刃が慎悟に聞いたが慎悟は何も言わずに入り口の鍵を指差した。そこには最近油をさしたあとがあった。 「誰かいるってことか」 「いくぞ」 慎悟はそういって中に入った。 「リー、月島から離れるな」 「はい」 両刃の指示にリーは自信ありげに返事をした。 中に入ると、たくさんの機械が四人を待っていた。 「動いてはいないな」 両刃が言うと、慎悟は機械と機械に隠れた奥のほうを指差した。そこで一つだけ小さい機械が動いている。なにか液体を作っているようだ。 「閉鎖されたんじゃ・・・」 「誰かが始めたんだろ」 慎悟はそれだけ言うと部屋を見回した。 一階は全て工場になっているらしい。機械以外はほかに何も無い。上を見ると二階に回廊があり、真ん中に橋がある。 「階段がある」 慎悟が一階の隅を見ていった。 慎悟はスタスタと階段まで歩いていき二階を見てから上り始めた。 「行こう」 両刃がつづく。 二階は階段を上ると左に倉庫があり、階段の前には回廊の橋があった。端の向こう側には大きな窓がある。 慎悟はまた階段を上って三階に行った。 三人もあとに続く。 が、 のぼりきったところで一番後ろを歩いていた月島がいきなり男に後ろから羽交い絞めにされ、ハンカチを口に押し当てられた。クロロホルムが染みこまされていたため、月島はすぐに目を閉じて眠ってしまった。 慎悟、両刃、リーの三人はまったく気づかなかった。それだけ男の行動はあざやかすぎた。 男は足音もたてずに一階までおりていき外に出ると工場の裏に止めてあった大型トラックの荷台に月島を乗せた。 そんなことはまったく知らずに慎悟たち三人は三階に三つある部屋をそれぞれ調べていた。 階段のすぐそばにある会議室を見ていたリーは月島がいなくなったことにまったく気づいていない。 会議室の横にある工場長室を見ていた慎悟は棚にある『取引履歴』とかかれたファイルを見ていた。 一年前から使われていないはずのの工場町長室は掃除されていて、埃は一つも無く、棚のガラスはピカピカ光っていた。 『取引履歴』というファイルには一年前に『嬰徳大学秘密研究所』というサークルとの取引をのあと、一件だけ書かれていた。 『American Offing Bard Promote Comminute 契約日 8月22日 受取日 8月26日』 慎悟は取引先の名前を日本語に訳した。 [American Offing Bard Promote Comminute(アメリカの沖の鳥推進委員会)] 「アメリカの沖ノ鳥島問題の推進派の隠語か」 慎悟は訳すのに少し時間がかかった気がしたが考えないことにした。 一番奥の警備室を調べていた両刃は監視システムの入ったコンピュータの電源をいれて驚いた。 一階の監視カメラに人は見えないが影が映っている。 二階のカメラには、回廊に男が銃を構えている映像が映る。 両刃は外のカメラを見てみた。そこには一台の車が移っていて、男がバイクを積もうとしていた。そして荷台の中には、 「月島・・・」 月島が乗っている荷台で、男が月島のロングスカートにつまずく。 「月島はオレたちと敵の両方にとって迷惑なやつなんだな」 両刃は認識を新たにして心の中でつまずいた男に謝った。 両刃は月島を見ながら、月島が誘拐されたことに驚くでもなく、銃を持った男が同じ建物の中にいることに恐れるでもなく、リーをどうやって、こらしめるかだけを考えていた。 「離れるなといったのに・・・」 両刃はそういうと警備室から出た。 それと同時に慎悟が『取引履歴』のファイルを持ちながら出てきた。 最後にリーが月島がいなくなったことにやっと気づき慌てて出てきた。 「両刃さん、麗菜さんが・・・」 「誘拐された。監視システムに映ってる」 「お荷物だったかな?」 慎悟が聞くと両刃が大きくうなずいた。 「慎悟、二階に銃を持った男がいる。そのほかに結構な人数がいるぞ」 「敵は逃げられるか?」 「大型トラックが一台。それに月島が乗っている」 「トラックはどこに止まっている?」 「この建物の裏だ」 「わかった。受信機持ってるな?」 慎悟がポケットから、アメリカのボディーガードが耳につけているような小型の受信機をだした。 両刃とリーもポケットから出す。 「両刃、リー。二人は警備室で敵の動きをさぐりながら敵が出る場所を教えてくれ」 「二人も必要か?」 「オレは見せ場を作りたい」 慎悟の言葉に両刃がため息をついた。 「しっかりやれよ」 そういって慎悟は階段に下りて行った。 「いくぞ、リー」 両刃そういって警備室に入って行った。 慎悟は用心しながら階段を下りて行った。 足音はたてずに、そっと。 『慎悟』 受信機から両刃の声がした。 『階段は最後の五段は飛び降りろ。五段に入ったところで敵の視界と射程距離に入る』 慎悟は舌打ちをした。 すでに残り4段だった。 前を見ると回廊の橋に男が銃を構えてこっちを見ている。 『ばか・・・』 両刃があきれて言った。 「探偵の片水慎悟だな?」 「はい・・・」 男の質問に自分にあきれながら慎悟は答えた。 「あの女が返して欲しければおとなしく下りて来い」 男が橋を渡った。 「・・・」 慎悟は考えた。 「返してほしいのかな・・・」 慎悟はそうつぶやいた。 受信機の向こうでは両刃がうなずいていた。 「さあ、どうする!」 男が階段の下に来ていった。 「じゃあ行くよ」 慎悟はそういって残りの四段を飛び降りて男の首に回し蹴りをくらわす。 「ばかだな。わざわざ階段の下まで来てくれるなんて」 男はすでに気絶していたが慎悟は一応言っておいた。 カキュン! 金属の階段に弾丸があたった。 反対側の回廊から弾丸がとんできた。 「二階にまだいたか」 慎悟はそう言うと倉庫の陰にかくれた。 「どうすっかな」 慎悟は腕を組んで考えた。 チラリと男がいる回廊をみると三人いた。そのうち銃を持っているのは一人だけ。 慎悟は倉庫を開けてみた。金属製椅子がある。 慎悟は椅子を一つつかむと倉庫の影から出た。 男が銃を撃とうとする。慎悟は10メートルほどある反対側の回廊に金属の椅子を投げた。弾丸はすべて金属の部分に当たり慎悟まで届かない。 椅子はそのまま男にぶつかった。男は倒れる。慎悟は一瞬で回廊の橋を渡る。向こう側から男がやって来る。 5メートル、4メートル、3メートル、2・・・。 慎悟は飛び上がって相手に蹴りをくらわせる。 いきなりの攻撃で男はよけられずにもろに胸にくらって倒れる。 後ろからもう一人来る。 慎悟はカンフーの技を華麗に繰り出し男の首を叩く。 三人の男を気絶させると、階段を男が上がってくるのが見えた。 慎悟は回廊から飛び降りて、一階の研究室に降り立った。 ここだけ機械が動いている。 慎悟は動いてる機械をみた。さっき見えた機械で、やはりなにか液体を作っている。 慎悟は考えた。 沖ノ鳥島問題推進派と思われる男。 人知れず開業している工場。 沖ノ鳥島問題推進派との取引。 1年前の爆発事件。 そして、なぞの液体。 慎悟は受信機の発信ボタンを押して両刃に声をかけた。 「そこのカメラで研究室の中を見れるか?」 「いや、見えない。そんなことより研究室にいるなら急いで出ろ。そろそろ回廊の橋にいる奴らが下りてくるぞ」 「ちょっと待て」 少し慌てている両刃に慎悟は落ち着いて言った。 「沖ノ鳥島全体を爆発させるのに必要な爆弾はどれくらいだ?」 慎悟のいきなりの質問に両刃は少し考えて、 「C4が一つ一つの島に500グラムしかけられてれば楽に全ての島を破壊できるだろう」 C4といのはほんの少量でも大きい建物を破壊することのできる爆弾だ。 「そうか」 慎悟はそういって回廊にまだ人が来ていないのを確認すると液体の側においてある資料を手に取って見てみた。 「・・・C4の倍・・・・液体で運びやすい・・1リットルで東京タワー消滅・・・・・衝撃を与えるだけ・・・・・新型で史上最強の爆薬」 斜め読みをするだけでこれだけの言葉が拾えた。 「慎悟、いったいなんの質問だったんだ?」 「話は後にしよう。とりあえず、やっこさんがくる。 慎悟はそういうと回廊をみた。 敵は研究室にいる慎悟に気づいた。 慎悟はすでに作られ、フラスコにおいてある液体を手に取った。 「こんなふうにおいといていいのかな・・・」 慎悟はそうつぶやいて放り出されていたピンセットの先でちょっと液体をつまみ回廊に放り投げた。 ドガーン ピンセットの落ちたところで回廊が折れた。回廊にいた男たちが驚く。 慎悟はその威力を見て、 「よくこんなところにこんな危険な爆薬を・・・」 慎悟の言葉の後には『ほうりだしておけたな』という言葉が続くのだがあきれて言葉にできないのだ。 「慎悟、急げ!来るぞ!」 受信機から両刃の声がした。 慎悟は研究室のドアを開けて部屋の外に出ると、いきなり三人の男が襲いかかってきた。 慎悟はその三人の間をするりとすりぬけ後ろに回るとカンフーの構えをした。 「日本人か・・・」 慎悟は男の顔を見て言った。 男は日本人だ。 慎悟は考えた。 アメリカの沖ノ鳥島問題推進派と思われる男の手下が日本人ということに矛盾が生じる。 慎悟は考えようとしたがそのまえに男がおそいかかってきた。一人一人の手には短い棒が握られている。 慎悟は男たちに突進し、男の攻撃をよけると棒をもぎ取り素早くカンフーの技を繰り出す。 男達の動きの速さは慎悟の3分の1にもみたなかった。 男たちにとっては、気づいたらやられていたよう感じだった。 慎悟は男の首を踏みつけて聞いた。 「おまえたちはなんなんだ」 男は慎悟をにらむとするりと抜け出して鋭い蹴り技をした。 慎悟は蹴りを手で受け止める。男は間髪入れずに攻撃をしてくる。 慎悟にとってそれは夏に自分の周りを飛ぶハエのようだった。止めても止めても技を繰り出してくる。それでいて、向こうはまったくスキを作らないのだ。 慎悟は壁まで後ずさりをした。 「追い詰めたぞ!」 男はうれしそうだが、慎悟は無表情で壁を蹴り、その反動で男に体当たりをした。男の胸に飛び乗ってジャンプをする。 「ゲハッ!」 男がつばを吐いた。 慎悟はそのまま胸に全体重をかけて殴りつけた。 コキリ 肋骨が折れた音がした。 慎悟は男を見てなんとも思っていないようだった。 次の瞬間、慎悟は左右と後ろに殺気をかんじた。 慎悟は振り向いた。 左右から新しい二人の男がとび蹴りをしてくる。後ろからは男が飛びかかってくる。 慎悟は左右の男の蹴りをよけ、飛びかかってくる男の顔を蹴り飛ばす。 左右の男のすばやい動きを止めるのは慎悟にとって苦難の技だった。 早いうえに止めただけでダメージが強い。しかも二人ということで手がおいつかない。 慎悟は男達の足をつかむと思いっきり引っ張った。男が倒れる。男のわき腹に蹴りをくらわせ、もう一人は首をしめあげて壁に押し付けた。 男が慎悟の手をつかんで、放させようとするが慎悟の腕はびくともしない。 慎悟はスキだらけの腹を殴ると男は気絶した。男の首を放すと一階の敵は全員かたづけていた。 「両刃、二階には何人敵がいる?」 『三人だ』 慎悟はそれを聞くと階段を三段飛ばしで登って行った。 『全員が銃を持ってるぞ』 両刃がそういうが、慎悟にとってそれはたいした問題ではなかった。 今は彼にとって月島が誘拐されたことは大きな問題になっていた。 敵の数が多すぎたのだ。てこずりすぎてトラックで逃げられたら月島が安全に帰ってくる確立はない。 二階に上がると一階に降りようとしていた男たちと真正面から向き合った。一瞬の沈黙の後男たちが銃をかまえる。 だが、慎悟のほうが動くのが速かった。銃口の角度を見て、素早く移動し、一番前にいた男の銃をもぎ取り、男の腹をける。残りの二人の銃が慎悟の頭をねらう。 パ、パン 二つの銃声が鳴る。 しかし、慎悟はすでに男たちの裏にまわっていた。慎悟が男の首に手刀を落とす。二人ともがくりと崩れ落ちた。 「これで終わりか?」 慎悟が両刃に聞くと、 『終わりじゃない。敵は全員片付けたがトラックが動き出そうとしている』 慎悟は舌打ちをした。もう動き出しているのだ。 『慎悟、トラックは建物の裏に止めてある。あそこは狭いから少し出るのに時間がかかる。そのあいだに外に出るんだ』 両刃のアドバイスを慎悟は聞いているのか、聞いていないのか、慎悟はじっと階段を見ている。 「両刃。トラックが通る道はどっちの方向だ?」 『は?』 慎悟はたまに突拍子もない質問をするのだ。 「いいから、答えろ」 『回廊の反対側です』 リーが答えた。 『丁度慎悟さんがいる回廊の橋の反対側です。大きな窓があるところです』 慎悟はそう言われて橋の反対側をみた。確かにそこには一辺五メートルの正方形の大きな窓がある。 慎悟はそれを見ると男からもぎ取った銃を窓に向けた。 『慎悟!なにするつもりだ!おい!』 両刃が受信機の向こうで怒鳴っているが慎悟はシカトをして引き金を引いた。 パン、パン、パン、 正方形の窓に五発の弾を撃ち込んだ。窓ガラスが割れる。 「両刃、トラックは今どこだ?」 『今、窓の下に来る』 両刃がそういうと慎悟は窓に突進した。 『おい、ばか!やめろ!』 両刃が怒鳴るが慎悟はかまわず橋をかけぬけ窓ガラスに突っ込んだ。 バリ〜ン 慎悟は窓から落っこちる。下には大型トラックの荷台の屋根がある。 慎悟は風を切りながら屋根に着地した。 「両刃、もうすぐ通信が切れる」 『どうするんだ?』 「自分で考えろ」 そういって慎悟は受信機の電源を切った。 「あのバカ・・・」 両刃は警備室で座っていた椅子の肘掛を握りつぶした。 リーはそんな両刃を見て恐る恐る言った。 「どうするんですか?」 「追いかけよう」 そういって両刃は立ち上がった。 慎悟は屋根にふせていた。スピードを出していて動くことができない。 だが、実際は時速45キロで普通のスピードしか出していなかった。慎悟は後ろにかかる圧力はもっと少ないと思って屋根に飛び降りたのだ。 慎悟はそっと立ち上がって、周りを見回してみたが、今どこを走っているのかまったくわからない。 キキキキッ! タイヤが音をたてながら急カーブを曲がった。 立ち上がっていた慎悟はいきなりのカーブでバランスを崩し、転がった。そのままぐるぐると回りながら屋根の端まで転がる。慎悟はなんとか止まったが、慎悟は立ち上がろうとしたとところで、今度は車が急に止まったため、車から落ちた。 なんとか右手だけ屋根につかまった。 慎悟の背中を汗がつたう。 慎悟は左手もつかまろうとした。そのとき、車のサイドミラーに助手席に乗っている男の顔が映った。 そして男がバックミラーを見て、 慎悟と目があった。 助手席の男の目が丸く見開かれる。 慎悟はどうしていいのか迷った。 いまさら急いで上ったところでどうにもならない。 いまさら降りたところで月島を救い出せない。 どうしていいか迷った慎悟は仕方がなく、助手席の男にえしゃくをした。 男もとりあえずえしゃくを返した。 それを見ると慎悟はスッと屋根に上った。 すると屋根の反対側に皮のコートを羽織り、帽子を深くかぶった男が立っていた。 慎悟はまたえしゃくをした。 男が帽子を脱ぐ。 アメリカ人の黒人だった。 慎悟は立ち上がった。車が動き出す。 トラックは高速道路に入って行った。 |