第3章
ビート
| 「そう。私は慎悟の姉みたいね」 麗菜が片水慎悟探偵事務所からだいぶ離れたある服屋の前で言った。両刃はこの店に用があるだ。 「やっぱり知っていたのか」 両刃が服屋の二階にある学生服売り場に向かいながら言った。 「両刃も知っていたなら言ってくれればよかったのに」 「慎悟に口止めされてたんだ」 そういって両刃は二階を見回して学生服売り場を探す。 「ショックだったか?慎悟が自分の母親を殺した犯人を殺さなかったというのは?」 両刃が横目で麗菜を見ながら言った。これでも気を使った言い方なのだ。 「まあね。でも、天下の片水慎悟が決めたことなんだもの。従うしかないわ」 そう言って麗菜は両刃を見た。横目で麗菜を見ていた両刃は慌てて目を前に向けた。 「横目で見るのは良いんだけど、何で私と目をあわせようとしないの?」 「女性不信ってのは言ったか?」 「リーから聞いたわ」 『あの野郎・・・』 両刃は手をきつく握った。指の骨がコキリとなる。 「人の性格をぺらぺら人にしゃべりやがって」 両刃は小さい声で言ったが麗菜はしっかり聞いていた。 「でも、それを聞いてから私は両刃のことを同情すようになったわ」 「同情なんかいらない」 両刃は手を開いて彼なりに笑ってそう言った。 「あんたもっと頬の筋肉鍛えたほうが良いわよ」 麗菜が両刃のぎこちない笑い方を見ていった。 「知ったことか」 両刃はそう言うと『天然学園』専用学生服』という棚の前で止まった。 「『てんねん』学園?」 「ちなみにこれは『てんぜん学園』だ」 両刃が強い口調で訂正する。 「日本人全員に聴いてもたいていの人が『てんねん』って読むわよ」 麗菜が頬を膨らませて言う。両刃はその顔を見て自分頬が赤くなるのを感じた。 「どうかした?」 麗菜が両刃の顔が緊張しているのを見て言った。 「別に」 両刃はそう言うと麗菜から視線をはずして聞いた。 「麗菜、慎悟の服のサイズはいくつだ?」 「Mだけど」 「学生服はそういう風にいうんじゃないんだ。身長で言ってくれ」 「え、165センチだったかな」 麗菜の言葉を聞くと両刃は棚の中から165Aという制服を見つけてズボンと一緒に買った。 「聞いていい?誰がそれを着るの?」 「今までの話の流れでちょっとはわかってくれてもいいと思うんだがな・・・」 両刃がワイシャツと校章を買いながらぶつぶついうと、麗菜に足を踏まれた。 「良いから早く言いなさいよ」 「慎悟だよ。今度の事件で何週間か学校に通うことになった」 「大変ね、慎悟も」 「まあな」 「もっと詳しく聞かせてもらえる?」 「買ってからでいいならな」 そういって両刃は麗菜をおいてスタスタとレジに歩いて行った。 「おまえも最近ニュースでやっている謎の少年の話は知っているだろ」 服屋の近くのファミリーレストランで両刃はそう口火を切った。 謎の少年というのは最近何か事件が起こるとそこに現れ瞬く間に事件を解決する少年のことだ。 ある銀行強盗の事件があり犯人が裏口から出ようとしたところにその少年が現れ犯人の目の前に立ち塞がると、その男を木刀で気絶させたというのだ。警察が現れるとスッと消えてしまう。 顔は銀縁のサングラスに黒い帽子をかぶっているのでどこの誰なのかわからないというのだ。その時の様子をカメラが捕らえていたので世間にその少年の存在が知れ渡った。そんな事件がもう十件ほど続いている。最近はインターネットでその謎の少年をビートと呼んでいる。 ちなみに、この名前の由来はとても変わっている。 昔の話だが、あるアメリカの少年が父親に、 「2億8247万5249の10乗根は?」 と、いきなり聞かれ数秒で“7“と答えたのだ。その少年の名前がヴィート・マンジャメルという。彼は今ネットでとても注目を集められている少年なのだ。ただし日本ではパソコンで「ヴィ」とキーボードを打つのは面倒くさいというので「ヴィ」を「ビ」にしている。二人は天才つながりなのでその謎の少年はビートと呼ばれているのだ。 「ええ。最近は両刃にニュース見ろ、新聞を読め、ってうるさく言われているから」 麗菜は皮肉としてこれを言っている。目の前にいる両刃に対してだ。 皮肉を言われた両刃はなんとも思わずに話を続けた。 「その事件は全てこの周辺で起こっているんだ」 「ちょっと待ってよ。私は何で慎悟に学生服を買ったのかの話を聞きたいのよ。まったく話が関係ないじゃない」 麗菜が、両刃が座っている椅子の脇に置かれた学生服が入っている袋を指差して言った。 「じゃあ聞くが、俺はこのファミレスに学生服の話をするために入ったんだ。なのにおまえが注文したこの大量の料理は何だ?」 両刃が領収書をひらひらさせていった。 両刃は、本当は領収書ではなく料理を指差したかったのだがすでに麗菜の口の中に消えた後だったのだ。 「いいから話して」 体制が悪くなると麗菜はすぐに話しを変えるのだ。 「その事件はほとんどがこの周辺で起こっている。それは言ったな?同時にだな、この学生服の学校、つまり天然学園の学区内でもあるんだ」 「で?」 「興味ないなら聞かなくても良いんだぞ」 メニューを見ながらチョコレートパフェを頼もうか考えている麗菜に両刃がそう言った。 「いいから続けて」 両刃はまだなにか言いたそうだが、話を続けた。 「その謎の少年について政府は調べているんだ。場合によっては慎悟のように飛び級制度(スキップ)を使ってでもその少年の才能を伸ばそうとしている。それでその少年の捜索をしているんだ。 そして、政府は天然学園に学区内で事件が起こっていることに気づいた。 そして、天然学園の生徒が謎の少年じゃないのかと思っている。それで何度か調査で学校を訪れたんだ。 そして今朝来た依頼人は天然学校3年1組の担任なんだがな。政府の調査官が授業の邪魔をしたりしてうるさいそうだ。あげくには生徒のプライベートについて質問をすると言うんだ。丁度、その担任の親の病気が悪化していて2,3週間ほど実家の九州に帰ることになって学校を留守にする。担任がいない間に生徒に何かあったら大変ということで慎悟に留守をお願いしたんだ。慎悟がその依頼を承ったから来週から学校に通うことになった。それで学生服が必要になったんだ」 「あの依頼人も学級主任の先生とかに頼めばいいのに」 「平の先生はどんなにいい考えを持っていても、学級主任の決定には逆らえないんだそうだ」 両刃はそう言って店員を呼ぶとチョコレートパフェを追加注文した。 「さあ、全て話したな。それを食べたら慎悟と一緒に動物園に行ってくれ」 「え、両刃とリーは行かないの?」 麗菜が驚いたように言う。 「俺はそんな年齢じゃないし、リーには仕事がある」 そういって両刃は領収書を見て財布から一万円札を5枚出して麗菜に渡した。 「この昼食代と慎悟たちと遊んでくる餞別だ。夜は何時になってもいいから楽しんで来い」 「両刃はこれからどうするの?」 「俺は本屋に言って教科書とか参考書を買ってくる」 両刃そう言うと制服を持って出て行った。 「勝手なんだから」 麗菜はそう言うが、両刃は両刃なりに気を使っているのだ。 麗菜は自分の弟と初めて二人で出かけるからだ。そういうふうに両刃はしてあげたのだ。 両刃はリーに、今日の午後は仕事を手伝うように言ってあるのだ。両刃はそのときにリーに慎悟と麗菜の関係について話そうと思っている。 麗菜はそんなことにも気づかずただひたすらチョコレートパフェを口の中に押し込んでいた。 「そっか、両刃は来ないのか。残念だな」 麗菜は慎悟と上野駅で待ち合わせて両刃は来られないと言ったところだ。もっとも慎悟は両刃が行かないと予想はしていた。 「でも遊園地にも動物園にも行きたがらない年齢なんでしょ?」 「ん、まあね」 慎悟はまた適当にごまかした。 「でもリーも来ないなんてどうしたのよ」 「用があるんだってさ」 「用って?」 麗菜が慎悟の顔を見て聞いた。 「両刃の手伝いと私用だよ。両刃に仕事を頼まれているんだ。それからあいつの両親は中国に住んでるだろ。そんなに暮らしが言い訳じゃないから仕送りしてるんだよ。今日が一ヶ月に一回の仕送りを送る日なんだとよ」 「えらいわね、リーは」 麗菜が感心したように言う。 「まったくだよ。どっかの誰かさんみたいに衣食住付きで雇ってもらって、親に何の連絡もしない女とは大違いだ」 慎悟が麗菜を見ながら言った。 「あんまり親と仲がいいわけじゃないの」 「ふ〜ん」 慎悟はそういわれて考えた。 五年前、慎悟に一緒に暮らさないかといってきた麗菜の父親。再婚もせずに一人で麗菜を育ててきた彼と仲良くできない理由が慎悟にはわからなかった。 「さっ。今日は二人だけだから楽しみましょう。夜は何時でもいいって両刃が言ってたわ」 麗菜が楽しそうに言うが、 「夜遅くまで動物園にいる理由はないと思う」 と、慎悟は冷めた口調で言った。 「そうなんですか」 リーが両刃の前で書類の束から顔を出しながら言った。今、慎悟と麗菜の関係について聞かされたのだ。 「でもそんなことを僕に言っていいんですか?」 リーが自分を指差しながら言った。 「いいだろ。一応事務所で働いているし、所員の中では慎悟と麗菜にもよく会うほうだからな」 両刃が高く積まれた書類の山に、ものすごいスピードで字を書き込みながら言った。 「じゃあ、それで今日は僕を動物園につれていかなかったんですか」 「ああ。わるかったな。行きたかっただろ?」 「久しぶりにパンダに会いたかったですね」 両刃は冗談で言ったと思ったので笑ったが、リーが大真面目な口調だったので両刃は高く積まれていた書類の山を崩してしまった。 「ありゃりゃりゃ」 リーがそういって書類を積み直すのを手伝い始めた。 「あんまり無理しないほうがいいですよ」 リーのねぎらいの言葉が両刃の心によく染みた。 「私の母親は昔死んだって、慎悟には言ったっけ?」 麗菜の言葉に慎悟がうなずく。 二人が座っているベンチの前をおじいさんが小さい女の子に手をひかれてうれしそうに歩いている。今日は9月20日の敬老の日だ。こんな光景は敬老の日ならではであろう。 「実は私は母親に会ったことが無いの」 慎悟は頷いた。 「私を生んでどこかに消えちゃったそうよ」 「父親は何も言ってないのか?」 「ええ・・・」 そういって麗菜は缶コーヒーを飲む。 「じゃあ、父子家庭だったのか?」 「そう。だから東京共鳴女子高校に通ってたの」 東京共鳴女子高校というのは母子家庭か父子家庭の親子のために作られた学校で、その学校に通っている生徒の親の八割は離婚したり、夫や妻に先立たれてしまった人だ。 「お父さんは、私が高校に入学してから大きい事業始めてあんまり一緒に過ごすような時間が無かったの。父は朝早くに家を出て、夜遅くに帰って来て、それで親子の距離が離れちゃって」 慎悟は頷きながら紅茶を飲んだが、リーが作ったものよりずっとまずいので口から離した。 「それで大学は一人暮らしを始めて、それで卒業してからもあなたに拾ってもらうまでずっと一人暮らしだったの」 「そのあいだにお父さんと会った?」 「あんまり・・・。でも手紙のやり取りはしてたわ。高校に入ってからいつも置手紙で手紙のやり取りしてたし、一人暮らしを始めてからも毎週送ってたわ」 慎悟はそんな麗菜を見て微笑んだ。 今の時代では手紙を使わずメールをする時代だ。だが、麗菜は手紙を選んだ。 「手書きだった?」 慎悟に聞かれて麗菜は頷いた。手紙で書くとしてもパソコンで書いたりする人が多い。今の時代にはほとんどいない古き良き時代の女性だろう。 「でも、あの仕事始めてからは・・・手紙を送るのをやめたの」 あの仕事と言うのは娼婦だ。 慎悟は性の類のことが嫌いだ。だから自分の姉にそんな仕事を続けてほしくないため片水慎悟探偵事務所で働いてもらっているのだ。 「お父さんも手紙を送らなかったから私と文通するのがいやなのかなって思って・・・。だからあんまりお父さんと仲良くないの」 麗菜はそう言って缶コーヒーを飲み干すとそばのゴミ箱に捨てた。 「なんかすごく思い違いしてるんじゃないの?」 そう言って慎悟も我慢して紅茶を飲み干した。 「なにが?」 麗菜が首をひねる。 「この世に子供と仲良くしたくないなんて思っている親はいないよ。少なくともおまえの親は違うよ」 慎悟は、一緒に暮らそう、と言ってくれた麗菜の父のことを考えたらそういう応えしか思い浮かばなかった。 「何でそう思うの?」 麗菜が聞いた。 「おまえみたいに、きれいで頭がよくて面倒見がいい娘なんてそうそういないぞ。そんな娘と仲良くしたくないはずが無いだろう」 そう言って慎悟は笑った。 麗菜はその笑顔を見て久しぶりに家に帰ろうと考えた。 暗い部屋の中。 ここは両刃の仕事部屋だ。 両刃は机のそばに掛けてあるカレンダーに黒でバツを付けた。 三日後の23日に丸が付けられている。 両刃はカレンダーを見て睨み、手の中に持っていたボールペンを握りつぶした。インクがぽたぽたとこぼれる。 両刃はずっとそのカレンダーの丸を睨んでいた。 「慎悟!パンダよ!パンダ!」 麗菜がパンダの檻を見つけ大声で叫ぶ。周りの子供連れの親が驚いて麗菜を見る。今日は祝日なので動物園を訪れる家族が多いのだ。 さっきからこの調子なので慎悟は麗菜から少し離れていたが、そろそろ何か言わなければまだ叫び続けると判断した慎悟は麗菜に小声で言った。 「麗菜。24歳だろ。少し静かにしてくれ」 「年齢は関係ないでしょ」 「関係ないとしても、名前は言わないでくれ」 「なんで?」 「一応俺は有名人だからサインをねだられることがあるんだよ。そういうの嫌いだからさ」 「それなら変装くらいして来ればいいのに」 「してるよ」 「なにを?」 「俺は今顔に何をかけている?」 慎悟が銀縁のサングラスを指差して言った。 「それは変装じゃなくてファッションでしょ!」 二人がくだらない喧嘩を始めた。 「言っとくけど、このサングラスはな・・・」 そのとき、 「ビートだ!」 という声が慎悟の声をさえぎった。 慎悟がキッと声のしたほうを睨む 勘違いしないでほしいのは、慎悟が睨んだのは麗菜との話をさえぎられたからだ。 声の方向から青いシャツを着て黒いサングラスをかけた少年が慎悟の方に走ってきた。その後ろでアキバ系の太った男が少年を指差して、ビートだ!と叫んでいる。 「慎悟!」 麗菜が慎悟にそう言ったがすでに慎悟は聞いていなかった。慎悟はビート向かって突進していた。 ビートは自分のほうに向かってくる少年に気づくと方向を変え狭い道に入っていった。 「麗菜!そこら辺にいろ!すぐに戻る!」 慎悟はそういってビートを追いかけた。 「ちょっと!・・・」 麗菜が慎悟を止めようとしたがすでに慎悟が走るスピードはオリンピックの陸上短距離走者並みの速さになっていた。 「勝手なんだから・・・」 麗菜はそうつぶやいたが聞いている人は誰もいなかった。 慎悟はビートを追いかけながら彼を観察した。オリンピック並みの身体能力を持った慎悟でも彼との差を縮めることができなかった。 ビートは前をだけ向いて走っていて後ろから慎悟がついてきているのを知らない。 慎悟は慎重に10メートルほどビートと距離を空けて走った。 ビートがほとんど誰も来ないような檻の前に来て止まった。慎悟はすぐそばに立っている木に隠れる。 ビートは周りを見回して誰もいないのを確認するとサングラスを取ろうとしてサングラスに手を伸ばした。が、その手がサングラスに触れて止まった。そして慎悟が隠れている木を見る。 『バレたか・・・』 慎悟はそう思って着の影から出た。 「誰だ?」 ビートが聞いてきた。 慎悟はその声を聞いて少し記憶の扉がゆれたのを感じた。が、そのゆれはすぐにおさまり慎悟は答えた。 「探偵の片水慎悟だ」 慎悟はそういってサングラスをはずした。慎悟の鋭い眼光がビートを睨む。 ビートはそんな慎悟をじっと見ていった。 「何か用か?」 「べつに・・・」 慎悟はそう聞かれてなぜビートを追ったのか考えた。ただ衝動的に追いかけただけで理由はない。 慎悟はそうビートに言ったらビートが微笑んだ。 「では、あっちへ行ってくれ?俺はまだ正体を知られたくないんだ」 「それはできないな。 一応言っておくが俺はおまえに興味がある。事件を勝手に解決して勝手に消える。木刀で犯人を気絶させ平和にする。まったく理解に苦しむ行為なんだよ」 「そんなことはない。世界を平和にしていくのは立派な行為だと思うが」 『俺もそう思う』 慎悟は思った。 「仮に理解に苦しむ行為だとしてもそれは君に関係があるか?」 『ないね』 慎悟は適当に話した自分を一瞬殺したくなった。 慎悟はビートのサングラスの向こうにある目を見つめていった。ビートはにやにやしている。 「俺はおまえと闘ってみたいんだ」 慎悟がそう言うと、ビートの顔が微笑みから完璧な笑顔になった。その顔はサングラスをかけているが子供の顔だった。 「たかがおまえごときが俺に勝てるのか?」 ビートがそういった瞬間、慎悟は風のように動き一瞬でビートとの間合いを詰めると、ビートの顔面にこぶしを叩き込んだ。こぶしは顔面に当たるはずだったがビートがぎりぎりのところでよけ一瞬で慎悟の間合いから外れた。 慎悟が手をすばやく動かしビートにこぶしを向ける。 ビートは体を横にして慎悟に左手を向け右手を後ろに向ける。そして親指の第一間接と第二間接をまげる。 その動きを見て慎悟は目を開いた。それは針砕流のかまえだったのだ。 慎悟が目を開いた瞬間にビートが動いた。慎悟に連続で蹴りを繰り出す。 慎悟は軽くよけながらその蹴りの動きをじっと見ている。今ビートの体中から殺気が出ている。慎悟は一瞬で判断した。 これは針砕流の殺人術だ。 感情をむき出しにして、制覇する気などまったく無いようだ。 ビートが軸足を左足から右足に変えた瞬間慎悟が動いた。その速さは肉眼で捕らえるのは難しいくらい速かった。 チッ、と軽い音がして、その音が終わった時には慎悟の右手がビートの目の前にあり、ビートの右足が慎悟の目の前で止まっている。二人はお互いの目を見て互いに相手を押して後ろに飛ぶ。慎悟がすばやく次の攻撃のために構えを取る。ビートは何もせず自然体で慎悟を見ている。 ビートが慎悟の針砕流の攻撃の構えを見て目を開く。 『針砕流か・・・』 慎悟とビートが同時に言った。 ビートは笑うと針砕流の構えをする。 慎悟は目を真剣にした。そして感情を押さえ込む。真の針砕流は殺人術の針砕流に勝る。慎悟はずっとそう信じてきた。今までだって大丈夫だった。 慎悟がビートを睨む。ビートもサングラスの向こうで慎悟を睨んだ。 フッと慎悟とビートが消えた。次の瞬間慎悟はビートの胸に針砕流の手刀を叩きつけていた。だが、ビートも慎悟の手に手刀を叩き込んでいた。一瞬、時が止まり、慎悟とビートは離れた。 慎悟は手を押さえ、ビートは胸を押さえている。 「引き分けだな」 ビートが言う。 慎悟が構えをといて自然体になる。 「感情を制覇しないから痛くなる。完璧に感情を制覇すれば痛いなんてことは無い」 そう言う慎悟はビートほど痛がっていはいない。 ビートが自然体になると二人が来た道から先ほどの太った男が汗をダラダラと垂らしながらやってきた。 「一つ聞くが、おまえは何者だ?」 「教えられない」 慎悟の単刀直入な質問に、ビートはなんとも思わずに答えた。 「だが、これだけは言っておこう」 ビートの目がサングラスの向こうで光ったように慎悟は感じた。 「おまえは俺に会ったことがある」 そういってビートはオリンピックの陸上選手のような速さで走り去っていった。 太った男がそのビートをまた追いかけようとする。新聞記者かビート対してのオタクのようだ。ビートは有名になりすぎて、しかもかっこいいのでオタクができてしまったのだ。 慎悟は太った男が垂らして行った汗を見てから来た道を戻った。 |
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