慎悟たちが無事に沖縄に帰って数日後、会談は終了した。 慎悟は沖ノ鳥島であったことを総理と大統領に話した。 大統領は自分の命を投げ出し、死闘の末、沖ノ鳥島問題推進派の男を捕まえた慎悟に、感銘を受けた。 そのことにより戦争はまぬがれた。 沖ノ鳥島の問題については今度会議をすることになった。この先沖の鳥島がどうなるかはわからないが、確かなのは戦争が免れたことだ。 ケンの犯行の動機はこうだ。 ケンはアメリカ人の父親と日本人の母親がいた。二人ともそれぞれの国の大使館に勤めていた。なんどか会い、二人は結婚した。 だが、ケンが生まれてまもなく二人は離婚した。理由は沖ノ鳥島のことで二人が議論した。 父親は、沖ノ鳥島を日本が浮かせておく意味が無い。沈めるべき、という意見だった。 母親は、沖ノ鳥島の観測所では台風が来たときにいろいろな資料を手に入れるためには必要なものだ、といい、父親とはまったく逆の意見だった。 その話し合いは喧嘩になり、家庭内暴力になった。父親は意味も無く母親に暴力をふるい、母親は父親への怒りをケンにぶつけた。 離婚して、ケンは父親とアメリカで暮らし、母親は日本に戻った。ケンはそれ以来、まったく母親とは会っていない。ただ、風の噂で、悪い病気にかかって死んだということを聞いた。 ケンが二十歳になったときにやっと離婚の理由を父親から聞かされ、ケンは家を出た。それ以来父親とも会っていない。 ケンは何年か沖ノ鳥島のことについて死ぬほど勉強し、法的に沖ノ鳥島を沈めることはできないかと考えた。 なぜかケンは沖ノ鳥島のことを勉強しなければならなく、そしてどうにか沖ノ鳥島を沈めなければならない。そんな意思が小さい時からあった。 ケンは、離婚しても意見を変えようとせず、母親のことをばかにしている父親を見ていられなかったのだ。 ケンはそのことを手紙に書いてアメリカの大統領に送った。父親が外交官で何度か大統領に会わせてもらったことのあるケンの手紙を大統領は読んで、返事に、法的には沈めることはできない。だが、日本の総理大臣と話し合ってみよう、と書いた。それが原因でこの沖ノ鳥島問題は始まったのだ。 大統領は忙しく、なかなか沖ノ鳥島について日本人の総理大臣と話すことができなかった。そして、ケンが手紙を送ってから五年たった今年、やっと大統領は日本の総理大臣と話すことができたのだ。 五年前、大統領の返事がケンの元に届くことは無かった。理由は、ケンがすでに別の方法を考え、家にも帰っていなかったからだ。 別の方法、それが今回の爆破事件だ。 ケンは五年前にこの計画を立てた。爆薬などいろいろ準備をするために年月が必要だった。だが、爆薬などの問題の前に片付けなければいけない最大の問題があった。片水慎悟だ。 当時、慎悟の仕事は海外でも紹介され、ケンは、邪魔をされる。そう考えたのだった。そして、五年前、ケンは日本に来た。そして、慎悟の情報を探った。 そのときは慎悟の命を狙うやつがいるなどとは慎悟の面倒を見ていた政府も考えなかった。そのせいで、慎悟の情報は政府のパソコンをハッキングをすれば簡単に手に入った。ケンは、慎悟は義理の姉がいることを知った。 そして、まずその姉を人質に取り、慎悟をおびき出して殺そうとした。 まず東京共鳴女子高校を立てこもろうとした。 だが、通報を受けて来た刑事が慎悟の父親だった。ケンが雇った三人の犯人がしくじったため、三人は捕まった。ケンは、自分のことを話されてはまずいと思い、三人を殺しに警察に行った。 そして、そこには慎悟がいた。だが、慎悟を殺すことはできなかった。 慎悟の両親を殺したとき、慎悟の目からは涙がこぼれていた。そのとき、ケンはなぜだか、わからないが慎悟を殺すことはできなかったのだ。 ケンは逃げるとすぐにアメリカに帰った。慎悟を殺さなくても彼の計画はうまくいくと思っていたのだ。 だが、その予想ははずれ、ケンはつかまった。 ケンが五年前に慎悟を殺さなかったのは、まだ人間の心が残っていたからだ。だが、その人間の心のせいで彼は慎悟に捕まえられた。 「運命の皮肉」とでもいうべきであろうか。 「そんなことじゃない」 慎悟が探偵事務所の慎悟の部屋で言った。 会談は終わったので、警護はもう必要ないということになり東京に帰ってきたのだ。 リーは慎悟に紅茶の味をほめられたので、キッチンでよりおいしい味を出そうと奮闘している。練習している。 月島は大量のお土産を持ち帰れるだけ持ち帰ってきたので三階の家に置きに行っている。 慎悟と両刃は二階の慎悟の部屋でケンから聞きだした動機について話し合っていた。ケンの動機はまだ慎悟と両刃しか知らない。 今、両刃は「運命の皮肉」という言葉を慎悟に言ったところだ。 「そんなことじゃない?」 両刃が聞く。 「ああ。ケンが五年前オレを殺さないで、一昨日、沖ノ鳥島でオレに捕まえられたのは「運命の皮肉」なんてものじゃない」 「じゃあ、なんだ?」 「偶然なんだよすべては偶然なんだ。例えば、オレと月島の関係だ。これは起こってはならないことだった。そして二人は出会ってはいけないのに出会ってしまった。偶然なんだよ」 「う〜ん」 両刃はうなる。 「なんでこういうことがおこるのかはわからない。すべては神の摂理の中にある。そう、運命ってことだな」 「そうか・・・」 神の摂理の中にある。 運命。 両刃はこの言葉の意味を考えた。 両刃は無神論者だ。だが、つい神の存在を信じたくなった。 複雑な関係で生まれた慎悟と月島。 これは神の意図があって作られた関係なのだろうか。 「とにかく、この事件は終り!ケンにも取調べでオレと月島の関係のことは言わないようにしてもらったし。何も穴は無いだろう」 「月島にはお前との関係のことは言わないのか?」 両刃が慎悟の意思を聞く。 「それが知るべきことならおのずと麗菜も知ることになる。そういうふうに世の中は出来ているから」 慎悟はそれだけ言ってあくびをした。 「少し寝かせてくれ。旅をすると眠くなる」 「わかった」 両刃はそういって部屋を出て行こうとした。 「あ、両刃」 慎悟が思い出したように声をかける。 「おまえがオレの家に来たときに月島が大学で何を専攻していたか聞いたんだけど、外語学だってさ」 その言葉に両刃が慎悟を振り返る。 慎悟はキャスター付の椅子でクルクル回りながらデスクの上に開いておかれた本を読もうとしている。 「だから・・・?」 両刃は、慎悟が何を言いたいのかわからない(なにをしているのかもわからない)。 「日本語の「雨」と「飴」の発音もまともにできないやつに外語学を学べるのかな?」 両刃はまだ、何を言いたいのかわからない。 だが、これ以上慎悟と話をすると、ただ疲れるだけだと考えたのでとりあえず黙って、部屋の外に出た。 「終わったんだ。この一つの小さな島(領域)をめぐる事件は終わったんだ」 両刃はそう考えて、リーの紅茶を飲みに一階へ下りて行った。 |