第二章 秘密

           



「口より手を動かしてください、所長」
月島がリーと喋っていた慎悟に鋭い言葉を発した。
 三日前に慎悟にお願いされて事務所に入った彼女の仕事は、事務所の雑用係だった。掃除、ご飯作り、買い出しが主な仕事だった。それを聞いてリーと月島は少しほっとしていた。どちらも血を見る仕事はやらせたくはないし、やりたくもないのだろう。
 二日前に家はどうしているのかと月島に聞くと、友達の家を泊まり歩いているという。それを聞いた慎悟は事務所の三階の開いている部屋を彼女にあてがった。もともと三階は慎悟の家だ。彼の家が三階をすべて閉めている。3LDKで慎悟は二つの部屋を使っていて、残りのひとつは長期滞在の依頼人が来たとき、いつでも貸せるようにしてあるのだ。その部屋を彼女にあてがった。
そのことを慎悟が両刃に言うと、一言だけ、
「襲うなよ」
と言って、あとはそのことについてまったく何も言わなくなった。
リーもこの言葉を聞いていたので、それ以来、彼は変な目で両刃を見るようになった。
昨日は月島の引越しの作業ばかりをしていた。依頼人も来ないで、調べる事件もなかったので、サラリーマンでいうと『たまの休日』なのだ。慎悟はこの言葉がとても好きだ。だから、慎悟はこんなふうに暇な日を『たまの休日』を略して『たま休』といっている。なぜこんなことを書くのかというと、このことについて慎悟と両刃が、キアヌ・リーブス対ブルース・リーの決闘並の喧嘩をしたからだ。今も両刃はこの言葉を聞くと戦闘体制になる。
 そして今日も『たま休』なので、慎悟はゆっくりしようとしていたのだが、朝っぱらから月島に起こされて月島の部屋の荷物の整理を手伝わされたのだ。三階に挨拶をしに来たリーも巻き添えをくった。
「月島さん。今まで友達の家を泊まり歩いていたんですよね?」
リーが恐る恐るきいた。なぜか、彼女が殺気を発しているような気がしたのだ。
「ええ、そうよ。それが?」
「じゃあこの荷物はどこから出てきたんですか?」
今、慎悟たちがいる12畳の部屋がほとんど埋まるほど荷物がある。
「親のところから送ってもらったのよ。あのベッドもね」
そういって部屋の隅に置かれた椅子を指差した。
「椅子ですよね?」
慎悟が聞いた。
月島はその質問に答えるためにベッドの横までいってベッドについている小さいボタンのようなものを押した。するとゆっくりとだんだん椅子が開いていき、ベッドになった。
「これ、通販で見たことがあります」リーがいった。
「結構高かった覚えがありますけど」
「そうね。でもその高さに見合う使いやすさと心地よさがあるわ。椅子のときは何か物を収納することもできるのよ」
慎悟がリーの肩をつついて小声で言った。
「いくらだった?」
「たしかおそろいの枕カバー、シーツ、毛布、掛け布団と寝間着、それからクッションつきで、10万だったような」
「それだけで?」
「ベッドから椅子にかえると四分の一の大きさまでたたむことのできるベッドなんでそうそうないでしょう」
「まあね」
そういって慎悟は肩をすくめて箱から荷物を出し始めた。
「親はどんな人なんでしょうね?」
リーも荷物を出し始めて言った。
「聞いてみれば」
「慎悟さんは興味ないんですか?」
「あるよ」
「じゃあ、慎悟さんが聞いてください」
「なんで?」
「聞き込みのプロでしょ?」
「探偵はみんながみんな聞き込みのプロと思われるとは心害だな」
慎悟が軽くリーをにらんだ。
「何を話しているの?」
月島が近づいてきていった。
「親はどんなかたなんですか?」
慎悟が仕方なく聞くと、
「きかないで」
一瞬顔をくもらせて彼女は言った。
「え、どうして?」
リーが顔をあげて不思議そうに聞いた。
「リー、聞くな」
慎悟が顔を下げて言った。
「でも・・・」
「話したくないことは無理に話させるな」
「あなたの親はどこにいるのか教えてくれたら私も話すわ」
月島が慎悟の顔に近づいていった。
その瞬間、慎悟は驚くべき速さで月島を突き飛ばした。リーが気づいて彼女をつかまなければ備えつけのクローゼットのなかにおさまっていただろう。
「オレの親の話は絶対にするな・・・」
慎悟が人を恐怖におとしいれるような目をしていった。
端整な顔立ちが一瞬ですべてを凍らせるような恐ろしい顔になったので、リーと月島はなにもいえなくなった。ただ二人の顔には恐怖の色しかうかんでいなかった。
「慎悟さん・・・」
リーが恐る恐る言った。
慎悟がリーをにらんだ。だが、だんだんその目の鋭さが柔らかくなって言った。
「すまない」
慎悟が倒れている月島に手をさしのべた。今の
慎悟からは殺気のかけらも感じられない。
月島は慎悟の手を握った。慎悟は彼女をやさしく引き起こした。
「すまないね」
慎悟は笑った。そのとき、リーと月島は慎悟の顔に悲しみの色が浮かんでいるのに気づいた。
「慎悟」
部屋のドアのところから声がした。そこにはいつのまにか両刃がたっていた。
「おはよう、両刃」
慎悟はにっこりして両刃をみた。
その顔には悲しみの色は完全に消え去っていた。
「昨日の事件でまとめたいことがあるんだ。二階のおまえの部屋で待っていてくれないか?」
「いいよ」
そういって慎悟は部屋を出て行った。
月島がはっとして慎悟を追おうとした。が、両刃がドアのところに立ちふさがった。
「なんですか?」
三日前の口喧嘩のことがまだ気にくわないのか少し声にとげがある。
「まあ、聞け」
そういってまだ座っているリーのところにいって手を差しのべた。
「月島さん。あんたは慎悟の過去をどの程度知っている?」
両刃が月島に向き直っていった。
「五歳のときにはじめて事件を解決して、五年前に東大を卒業したって言うことしか・・・」
「リー、おまえは?」
月島の言うことを最後まで聞かずにリーにきいた。
「ボクもそれくらいしかしりません」
リーが申し訳なさそうに言った。
「にたりよったりだな」
両刃が肩をすくめて言った。この動作は慎悟とよく似ている。
「月島さん、リー。さっきのことは全部見ていたんだが・・・」
『忍者か・・・』
リーはまったく気配を感じさせなかった両刃のことをこれからは忍者と思うことにした。
「人間は絶対に思い出したくなくて誰にも触れられたくない過去っていうのがあるものなのだよ」
両刃が二人の目を順番に見つめていった。
「月島さん、あなたの親のことが言い例です」
「私の親のこと何も知らないくせに!」
月島は急に怒りの感情を出した。
それは、慎悟と同じ、絶対に思い出したくなくて誰にも触れたくない過去を、嫌いな両刃に触れられたからだ。
「とにかく、慎悟に謝ってください。少しでも悪かったと感じているのならね」
そう言って両刃部屋を出て行こうとした。だがドアの前で立ち止まり、月島を振り返って最後に一言言った。
「あと、自分の荷物の整理と部屋の飾り付けくらいは自分でやるように」
「それはなんですか?命令ですか?」
月島がめんどうくさそうに両刃を見ていった。
「これも慎悟のためにしてやることのひとつです」
そういって部屋を出て行った。
この言葉に乗じてリーも出て行った。
部屋に一人残された月島は大量の荷物をみて少しため息をついて荷物を出し始めた。


 「あせったな、さっきの月島の言葉には」
慎悟が二階の彼の部屋のデスクを片付けながら言った。
「まあな」
ちょうど入ってきた両刃が答えた。
「だが、多分聞かれると思っていただろう?」
「もちろんだ」
両刃の質問に、慎悟はファイルを慎重に積み重ねがら答えた。
「今まで聞かれなかったのが不思議なくらいだ」
「月島も一応聞いちゃ悪いとは思っていたんだろう」
「そりゃそうだ。あんなに優しい顔をしているのにそんな鈍感なはずがない」
「なんの根拠もないことよく平気でいえるな」
両刃が苦笑した。
「根拠は『優しい顔をしている』ってことだよ」
「科学的根拠としては不純だとおもうが」
「この世が科学だけで説明できるものだと思っているのか?」
慎悟があきれた顔で両刃を見た。
「とにかく、今日中に月島はおまえにあやまるだろう」
「おい、両刃」
慎悟が、文句があるといいたそうな顔をして両刃をみた。
「なんだ?」
「彼女の呼び方をかんがえないか?」
「は?」
「だって、おまえのことは両刃って名前でよんでいるし、リーのことはリーってよんでいるんだから彼女のことも名前でよんであげないか?」
「・・・知ったことか!」
そういって両刃は出て行った。
両刃が出て行ってしばらく掃除を続けていた慎悟は、リーが作ったコーヒーのいい匂いにつられてふらふらと一階におりていった。


 PM 7:30
三階の慎悟の二つある部屋の一つである、仕事部屋で慎悟は一生懸命コチャコチャとパソコンをやっていた。
仕事部屋はパソコンが四台。キーボードが四台。プリンタが三台。いろいろな機材があるため部屋の床は配線だらけだ。
なにをやっているのかは予想もできない。ただ、事件の依頼を聞くよりずっと一生懸命なのは誰にでもわかる。
だが、その作業は月島のノックによってさえぎられた。
「どうぞ・・・」
慎悟はパソコンの画面から目を離さずにいった。
「失礼します」
月島が入ってくるが、慎悟は背中を向けている。
「なんですか、月島さん」
慎悟はまだ月島を見ようとしない。
「夕飯の用意できましたけど」
「ああ・・・」
そういって慎悟はまだ夕飯を食べていないのを思い出した。
「今行きます。先に食べていてください」
片水慎悟探偵事務所の勤務は6:30までで、残業は必ず家でやるようになっている。
 ただ、月島の勤務時間は8時までだった。慎悟の家庭での面倒まで見ることになっているのだ。これを提案したのは両刃だった。最近慎悟は、昼ごはんは事務所で両刃かリー、もしくは平の所員が作ったものを食べているのだが、夕飯はほとんど外食ですましていた。それは健康に悪いということで両刃が慎悟の家でも月島に勤務をさせ、ご飯を作らせているのだ。ただ、彼女の扱いは6:30を過ぎると家政婦扱いなのだ。
「人権侵害だ」
と、慎悟が両刃に言ったのだが、
「いいや。大丈夫。それに家政婦といっても市原悦子のような家政婦ならいいだろ」
「オレの家では日常にサスペンスは存在しない」
と、話がそれてしまうのだ。

 「あの・・・」
月島が顔を下げながら言った。
「なんです?」
慎悟は耳だけ彼女に向けて言った。
「今朝は・・・、失礼なことを聞いてしまって、その・・・」
今はキーボードの上を舞っていた慎悟の手も止まり、慎悟の感覚すべてが彼女の言葉を聞こうとしていた。
「その・・・」
ここまで下だけを向いていた彼女の目が慎悟の背中を見た。
「ごめんなさい」
そういって彼女は頭を下げた。
慎悟はそんな彼女を見て、
『この年だったら普通は
『ごめんなさい』
じゃなくて、
『すみません』
だろうな・・・」
などと考えていた。
そしてまだ、頭を下げていた彼女に気づくとあわてて、
「いいですよ。頭なんか下げないでください」
といった。
だが、月島は顔を上げようとしない。
しかたなく慎悟は彼女の肩をつかんでぐいと引き上げた。
「ご飯ですね?行きましょう」
そういって慎悟は彼女に笑いかけた。

 ダイニング=ルーム(ダイニング=ルームと呼べるほどきれいではないが)で慎悟と月島が食事をとっている。この風景をみると、姉弟のように見える。二十三歳の美人な姉と14歳のかっこいい弟。親は共働きで帰ってくるのが遅い。などと勝手だが推測できる。
慎悟はそんなことを考え、月島に言ってみた。
「そうね、慎悟」
と呼び捨てで月島がふざけて言ってみた。
慎悟も笑ってまんざらでもない様子だ。
 二人はどこか似ている。それは、顔などの特徴ではなく、言葉では言い表せないものであり。気持ちの問題だった。
そう思った月島は慎悟に言ってみた。
月島は自分と同じように冗談で返してくると思ったが、慎悟の顔が一瞬曇った。だが、
「オレもそう思っていたよ」
慎悟は一言そういって席を立った。
「じゃあ仕事が残っているんで」
慎悟はそういって部屋に戻ろうとしたが、
「片付けは自分でしましょう」
そう月島がいったので10秒ほど立ち止まってから仕方なく自分の皿をもって流しに向かった。
ビー・・・
慎悟の片づけが半分ほど終わったところで呼び鈴が鳴った。
「誰か来ましたね」
慎悟は手を拭いて玄関に出て行った。
「私が出ますよ」
月島が後からやって来て言ったが、
「うちにはたまにおかしなやつが来るんでいいですよ。それとも日本全国の空手大会で優勝できるだけの力があなたにあるのなら別ですけど」
月島には慎悟の言っている意味がわからない。
「たまに裏社会の人間を捕まえるとその手下が、かたきをとりにこの家にやってきたりするんですよ」
「ふ〜ん」
月島がうなずいた。
それを見て慎悟は扉を開けようとするが、もう一度月島の顔を見た。
「お願いがあるんだけど」
「なに?」
「さっきオレが姉弟みたいだって言ったときの喋り方があるだろ。これからはそういう話し方でいいよ。両刃にもリーにも」
「それだけ?」
「そう」
「・・・わかった」
その言葉に慎悟がうれしそうに大きくうなずくとドアののぞき穴から外をみてドアに向かって、
「合言葉は!?」
と、叫んだ。が、外から帰ってきた言葉は冷たく、
「合言葉なんかない。はやくあけろ」
あきれた両刃の声がした。
慎悟は口をとがらせてドアをあけた。
「慎悟、明日からの緊急の仕事が入った」
「まあ、中に入れ」
「ここでいい」
慎悟のあたたかい言葉を両刃はつめたい言葉ではじきとばした。
「明日から総理大臣の護衛になった。明日の朝総理官邸に迎えにいってそのまま沖縄に行く。そこで一週間ほど総理大臣のスケジュールに同行して護衛。わかったな?」
「ほんとに緊急の仕事だな・・・」
慎悟はあきらかにめんどうくさそうだ。
「我慢しろ。昨日の沖ノ鳥島問題でアメリカのおえらいさんがたと会談するんだ」
「沖縄で会議なんて、沖縄サミットみたいだな。あのときのテーマソングは何だっけ?はやったよな?」
無邪気な顔をして慎悟が言う。が、
「生まれてきたこと後悔したくなければ黙って聞いてろ」邪気だらけの顔で両刃がいった。
「とにかく、あの問題は結構批判をあびているからいつアメリカの推進派に襲われるかわかったものじゃない」
「沖ノ鳥島問題って?」
ここまでずっと黙っていた月島がきいた。
「ニュースを見ていないのか?」
両刃が『あきれた』×10くらいの表情をしていった。
「昨日のニュースなんでしょう?昨日は一日中引越しの作業をしていてニュースなんか見ている暇はなかったもの」
月島が反論するが両刃は聞く耳を持たない。
「まあ、いい。あなたはこれから一週間留守をまかせるから」
「いや、彼女も連れていくよ」
慎悟が不思議そうな顔をして両刃を見てから言った。
「なんで?」
両刃が青汁でも飲んだような顔になっていった。
「一週間沖縄ではずっと総理大臣と一緒なんだろ?」
「ああ」
「じゃあ、どうやって沖縄のお土産を買うんだよ?」
「・・・は?」
「彼女にはお土産を買ってもらう。あと、なにか思いついたらやってもらうよ」
「だが・・・」
「飛行機のチケットなら余分に買ってあるだろ?」
「そりゃまあ、一応・・・」
「じゃあ、決まりだ。それを使って明日は行ってもらうから。頼むよ、ね〜さん」
慎悟がふざけて月島の顔を見て言った。
「わかったわ」
「・・・勝手にしろ。明日七時に事務所の前にでていろ。迎えに来る。オレ達は慎悟より一足先に沖縄行く」
そういって両刃はドアをバタンと閉めて行ってしまった。
「ねえ、慎悟」
「なに?」
姉弟のような話し方をしてくれる彼女ににっこりして慎悟が聞いた。
「いいのよ。別に行かなくても。私はこっちで留守番していたほうがいいと思うし」
「いいの。オレはあんたに来てほしいから」
「そう・・・」
「さ、片付けよう!」
そういって慎悟は戻っていった。
「ねえ、私のことは麗菜ってよんでいいわよ」
慎悟の隣で自分が使った皿を洗いながら月島が言った。その言葉を聞いて慎悟はビクッとして彼女を見た。
「今のは告白か?」
慎悟が真顔で聞いた。
『ウケをねらっているのかな・・・』
月島はどういうか迷ったがとりあえず首をふった。
「あっそ」
そういって慎悟は手を拭くと、
「沖ノ鳥島問題を知らないんだったね。話すから席についてくれる?」
そういって慎悟は座った。その向かいに月島も座る。
「まず、沖ノ鳥島は知ってるよね」
「まあ、ちょっとは」
「説明できる?」
「えっと、日本最南端の島。南硫黄島の南西、北緯二〇度二五分、東経一三六度五分にある環礁で、満潮時にはわずかな岩礁を残して水面下に没するため、消滅しないように工事が行われ、波による浸食から岩礁を保護している。東京都小笠原村に属し、昭和六年(一九三一)日本領になった。これくらい」
「・・・辞書見た?」
慎悟が数秒間、口を開けてから言った。
「持ってないでしょ」
「だよね・・・」
慎悟はあまりに詳しく知っているので念のため聞いてみたが当たり前の回答が帰ってきた。
「大学で何を専攻していた?」
「外語学よ」
慎悟はこの知識をどう身につけたかが気になった。
「まあいいや。とにかくその日本領になったってところが重要なんだけどね。
昨日の朝、いきなりアメリカが日本に、沖ノ鳥島を沈めるようにと言ってきたんだ。自然を人工に変えてまで領土を得る必要があるのか、っていうのがアメリカの言い分でね」
「ふ〜ん」
「それで、日本でもアメリカでもそれについて話し合いたいってことで、明日沖縄で会議が開かれるの」
「なんで沖縄なの?」
「現地に行ってみるのもいいだろうってことで、沖縄のほうが現地に行くための準備がしやすいから東京じゃなくて沖縄にしたそうだよ」
「さあ、明日の準備だ。そんなに、持っていく物はないけどね」
「はい」
「あ、何でもいいから御守りを持ってる?」
慎悟がふと思い出したように聞いた。
「えっと、身代り御守りが一つと大学に入学するときに買った合格祈願の御守りがあるだけだけど」
「じゃあ、その二つを持っていってくれ」
「なんで?」
「御守りは何にだって効果があるのさ。この仕事をやっていると、どんな御守りでも御守りがあってよかったって思うときがあるから」
「ふ〜ん」
「じゃ、そういうことだから」
そういって慎悟は彼のプライベートルームに入って言った。この中は慎悟と大工以外誰も見たことがない。鍵はとても特殊な鍵なのでピッキングは不可能だ。ドアもがんじょうなのでそこらの大人が体当たりしたくらいでも開かないのだ。もし三階に敵が入ってきたときはここに立てこもるのだ。
「あ、聞きそびれちゃった」
月島は立ち上がりながら言った。
「ま、いいわ。明日聞こうっと」
そういって月島も自分の部屋に入っていった。
麗菜は自分の部屋で身代りの御守りと合格祈願の御守りをバッグの中にいれて考えた。
「両刃は私のことが嫌いなのかしら」
両刃のずっととげとげしい口調は変わらない。
「それさえなければ慎悟と同じくらいかっこいいのに・・・」
勝手なことを考えるものだ。