第16章
AT LAST

レストランの中で両刃と猪狩は真正面から対峙している。その周りでは今すぐにでも組員が飛びかかろうとしている。
「おい、おまえら」
猪狩が組員全員をにらんで言う。
「この男を殺せばとりあえず銃を持ち逃げしたことは許してやる。それから三神も助けてやろう」
そういって猪狩は両刃をにらむ。
「今すぐ殺せ!」
猪狩の言葉で一人の組員が両刃に飛びかかる。
両刃の右足だけがビュッと動いた。両刃の右足が組員に触れた瞬間、組員は数メートル飛び上がって気絶した。
「言っておくがここにいるザコに俺は殺せない」
そう言って両刃も猪狩をにらむ。
「この中でおれと対等に戦うことができるのはお前だけだ」
「早く殺せ!」
猪狩の言葉で今度は組員全員が両刃に向かう。
両刃は全く身動きせずに右手をポケットに入れている。
「人の話を聞けよ」
両刃はそう言って笑った。


「リー、木古内がいるならかわれ」
慎悟は車で、リーに携帯をかけながら言う。
「ちょっと待ってください」
リーは携帯を持って木古内の所へ走り出した。
「運転中の携帯電話の使用は法律で禁止されているんじゃないのか?」
ビートが助手席で、前を走る黒い車をにらみながら言った。
「今はやむを得ない。お前が電話するか?風上創次君」
慎悟がアクセルを強く踏みながら言った。
ビート・・・いや、創次は答えない。
「おまえは長瀬慎なんだろ?」
創次が聞いた。
「そうだ。なんでわかった?」
慎悟は特に秘密にする理由がないので素直に答えた。
「日本全国にJHSは知れ渡っている。日本のどこかから転校してきたのにJHSのことを知らないのはありえないんだ。
仮にありえるとしても中学生の年齢で学校に通ってないやつに限定される。それに当てはまるのは、今の日本では片水慎悟しかいないんだ」
「じゃあ、だいぶ前にわかってたんだな?」
「ああ。お前が転校してきた日の朝にわかったよ」
学校で慎悟の紹介が済んだ時、教室の隅で男子生徒が固まってヒソヒソと話していたのはそのことだったのだ。
「じゃあ片水慎悟だと知っていて入会試験もやったのか?」
「ああ。案外手こずってたのには驚いたよ」
「余計なお世話だ」
慎悟はそう言ってハンドルを強く握った。潜入捜査の初歩である自分の正体がバレないようにするのが出来ていなかったからだ。
「修行が足りねえってことかな」
慎悟がそう言うと携帯に木古内が出た。
「木古内。今から俺が指示を送るから俺の後ろにいるパトカーに伝えてくれ」
『わかった。満農さんにやってもらうぞ』
木古内がそう言ったとき、受話器の向こうでバリーンとガラスが割れる大きい音がした。
「何だ今のは?」
慎悟が聞く。
『ガラスが割れた。両刃が二階でずいぶん暴れまわっているらしい』
慎悟はそれだけ言われれば十分だった。
「怒らせると怖いからな〜、あいつは」
慎悟は以前、壮絶な喧嘩になったときの両刃を思い出した。


両刃は一人の組員を窓蹴り飛ばした。。
組員はガラスを破って下へ落ちていった。
両刃はまだ右手をポケットに入れている。
組員が一人一人かかってくるが両刃は全員蹴り飛ばし、誰にも手を使っていない。
大柄な組員が足を繰り出すが両刃は攻撃を足で止めてそのまま腹を蹴る。組員はテーブルに倒れこんだ。
両刃は床をすべるように進んで組員の前に立つと首を思いっきり蹴り飛ばす。
グキリ
折れてはいないだろうが鳴っていはいけないような音がした。
パキュン!
銃声だ。両刃の後ろから組員が撃ってきた。弾丸は両刃の横を通り抜けて壁に穴を開けた。
両刃はテーブルの上に置かれている皿をつかむと後ろに投げる。皿は組員の手に正確に当たり、銃は組員の手を離れてテーブルの下に入った。
組員が慌ててしゃがんで拾おうとするが、両刃はワインのボトルをつかむと組員の頭に投げつけた。ボトルがばらばらになって組員が崩れる。
「動くな!」
また組員が銃を両刃に向ける。
両刃はテーブルの下に隠れると、隣のテーブルの上に置かれていたまだ開けられていないシャンパンのビンをつかみ、組員に向かってコルクを飛ばす。
ポン!
歯切れのいい音がしてコルクが男の腕に当たる。銃は窓の外に落ちていった。
両刃はテーブルの下から出るとテーブルを土台に、飛び上がって組員の頭にボトルを叩きつける。
組員は頭からシャンパンを浴びて崩れ落ちた。
「贅沢なやつだ」
両刃はなんだか楽しそうにそう言った。
両刃が後ろを向くと残りの3人の組員がナイフを持って両刃をにらんでいる。
素手で勝てなくて、銃でも歯が立たないと知った組員はナイフを握ったのだ。
両刃はそばのテーブルからスプーンを持った。
組員が襲ってくる。
両刃はじっと組員を見ている。
組員のナイフが両刃の心臓に向かってまっすぐ伸びる。
カキッ
両刃はスプーンでナイフを受け止めた。組員はナイフを押すが一ミリも動かない。
両刃はスプーンで押し返すと何も握っていない左手を組員の顔に叩き込んだ。組員が鼻血を出して倒れる。
二人の組員が同時に両刃に襲いかかる。
両刃は、二人が何度も繰り出すナイフをスプーンだけで受け止める。
「1,2,3, 4・・・」
両刃が小声でナイフを受け止めた回数を数える。
「・・・8,9,10」
両刃が片方のナイフを止めたままもう一人に蹴りを加える。組員が吹っ飛び、両刃は抑えていたナイフを上に弾いて、ナイフは天井に刺さった。
最後の組員がナイフを見上げ、スキができた。
「ハァッ!」
両刃が組員の胴体に拳をめり込ませる。組員は壁に叩きつけられて気絶した。
組員が壁に叩きつけられた振動でナイフが落ちてきた。両刃は空中でナイフをつかむと猪狩に向かって投げつけた。
猪狩は拳銃の銃口でナイフを弾き飛ばす。
「ザコは片付いたな」
両刃はそう言って猪狩に空手の構えをした。
麗菜は数分で何人もの組員を倒した両刃を呆然として見つめている。そして、なぜさっき、両刃のことが頭に浮かんだのか考えた。


「刑事さん、次の四つの場所にパトカーを待機させてください」
創次が慎悟の携帯で満濃に指示する。
『いったいどこにおびき出そうとしているんだい?』
満濃がパトカーに指示を出してから聞いた。
「高速道路ののインターチェンジです」
『そこで何をするんだい』
「今夜間工事のため通行止めになっているんです」

慎悟は最近毎日やっていたテレビの高速道路の通行止めの宣伝を上手く利用したのだ。
「そこに追い込んで何とか捕まえます」
創次が横目で慎悟を見ながら言った。慎悟の考えが素晴らしいと思っているのだ。
『わかった。がんばってくれ』
創次はそう言われて電話を切った。
「慎悟に言われたとおりやったけど、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ」
慎悟がそう言うと前方にパトカーが見えた。黒い車はパトカーがいない方向へ走る。知らないうちに車は通行止めのインターチェンジに誘導されているのだ。
「いちいち高速道路におびき出す必要があるのか?」
「別に必要は無いよ」
また黒い車がパトカーのいない方向に誘導される。
「じゃあなんで?」
「一台も車のいない高速道路ってなんか楽しそうじゃん」
慎悟は楽しそうに言うが、創次には慎悟の考えがあまり理解できなかった。
「おまえは小さいころ近所の探検とかを楽しまなかった子供だろ?」
「なんでもいいだろ」
創次は無愛想に言う。その言葉には何か深い怒りのようなものが感じられた。
「あの角を曲がれば高速だ」
そう言うと黒い車はまたパトカーのいない道へ車を走らせてインターチェンジへ突っこんで行った。
「おい、シートベルトしてろ」
慎悟の言葉にビートは素直に従った。
「警察には高速の入り口に車を止めて置くように言え」
慎悟が言い始めたと同時に創次は電話をかけ始めていた。
「俺たちはいいコンビになれるかもな」
そう言って慎悟は高速に入って行った。




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