第12章
朝食(14歳がいやがる思春期)
AM 7:15 慎悟が両刃の家の番号キーを開け、家の中に入る。玄関でスリッパに履き替えるといい匂いがしてきた。 慎悟が台所をのぞくと麗菜が朝ごはんを作っていた。 「おはよう」 慎悟が麗菜に声をかけると麗菜が振り向いた。 「あら、おはよう。早いわね」 麗菜は笑いながらきれいにオムレツの形を整える。 「ああ。5時までスカパー見てたら眠れなくなっちまって」 慎悟がそう言いながら麗菜のそばに行く。 「なんか手伝うことある?」 「そうねぇ。じゃあミナたちを起して来てくれる?」 麗菜の言葉に慎悟が明らかにイヤだ、と言う顔をする。 木古内の力を借りて、ミナたちをダンスバーから抜け出させてもらい、木古内の麗菜に対する求愛を無視して、両刃の家に来たのだ。慎悟の家は泊まれず、リーはマンション住まいで狭いので、両刃の4LDKの家に来たのだ。両刃の家は無駄に広いし、いつでも客が泊まれるように4つの部屋はベッドがある。 「何がイヤなのよ?」 「俺は女が寝てる場所の3メートル以内には入らないと決めてるんだ」 麗菜の質問に自分の信念をぶつける慎悟。 「私を仲間にした日はどうだった?」 慎悟の信念の穴をうまく突く麗菜。 「何でもいいから早く行ってきて」 そう言って麗菜はオムレツを皿の上に乗せる。 慎悟はめんどくさそうに階段を上っていく。二階は全て客室となっている。 慎悟は部屋をノックしたが返事が無い。 「失礼しまーす」 慎悟はそう言ってドアを開けるとミナが寝ていた。 「3メートルか」 慎悟がそう言ってベッドまでの距離を目で測る。すでに2メートル以内には入っている。 慎悟はため息をつくとベッドのそばに行った。 慎悟は頭の中で、なんと言って起こそうか考えた。 「ミナさん。起きてください。朝ですよ」 慎悟の言葉にミナが眉毛をピクリと動かして目を開ける。 「おはようございます。一階で麗菜がご飯を作っているので下りて来てください」 慎悟はそう言って笑顔を見せる。その笑顔でなぜかミナの頬が赤くなった。 慎悟は笑みだけ残して次の部屋へ行った。 美実が毛布をかぶって眠っている。 「美実さん、起きてください。朝ですよ」 慎悟の言葉に美実が毛布をどける。美実の姿を見て慎悟は二メートル後ろに跳び下がった。 「どうしました?」 美実が目をこすりながら慎悟に聞く。 「一階で麗菜がご飯を作ってます。下りて来てください。それから下着姿で寝るのは危ないですよ」 そう言って慎悟はビュッと風を巻き起こして部屋を出て行った。部屋では美実が目をこすりながら下着姿の自分を見た。 慎悟は心臓をドキドキさせながら最後の部屋の前に来た。 「だからイヤなんだ!」 慎悟はこういう事態を予想していたから嫌がっていた。14歳の思春期の男の子でも、そういうものを害だと思う子もいるのだ。 慎悟はイライラしながら最後の部屋をノックした。 「は〜い」 最後の部屋は返事がした。 慎悟がそっとドアを開ける。また変な格好でいられると困るからだ。 「おはようございます」 美樹が手鏡を見ながら髪の毛をとかしている。 「おはようございます。慎悟さん」 美樹はしっかりと目が覚めている。三人の中ではそれなりにしっかりしているようだ。 「麗菜が朝食を作ってるんで降りて来てください」 「わかりました」 そう言って美樹は立ち上がる。 慎悟と美樹は連れ立って階段を下りる。 「いつも麗菜がお世話になってます」 「いえ。どちらかというと私のほうがお世話になってるんで」 慎悟は美樹と自然と会話ができる自分に少し驚いた。 「慎悟さんは私たちを警察に突き出すつもりは無いんですか」 美樹の質問に慎悟は少し考えて、 「そんなつもりは無いです。もしそんなつもりならとっくに麗菜は警察にお世話になってます」 と答えた。 「どうしてですか?」 美樹が立ち止まって聞く。 慎悟は頭をかくと、 「忘れました」 慎悟の言葉に美樹がキョトンとする。 「なんか、その質問は以前に麗菜からもされた記憶がありますけど」 慎悟はそう言って美樹の目をまっすぐ見た。 「これが俺の生き方なんで」 慎悟はそう言ってリビングに入って言った。 リビングでは麗菜が朝食を並べていた。朝食の食材は全て冷蔵庫の中にあったものだ。 「慎悟、勝手に食料を使って怒られないかしら」 麗菜が花柄のエプロンを外して言った。 「怒られないだろ」 慎悟はそう言いながら麗菜が外したエプロンを見て、 「これおまえが持って来たの?」 慎悟の質問に麗菜が首を振る。 「台所に置いてあったの」 「ふ〜ん」 慎悟が小さく頷く。 「さ、冷めないうちに食べましょ」 麗菜の言葉に慎悟が頷いた。 すぐにミナと美実が下りて来た。 朝の会話はとてもはずむ。ミナたちは慎悟にどんないきさつで麗菜が仲間になったのか、片水慎悟はいつもどんな生活をしているのか、など話題は抱負だった。 「でも信じられないわね」 一息ついて、美実がオレンジジュースを飲みながら言った。 「なにが?」 麗菜が聞く。 「昨日までは超有名人の片水慎悟と朝食を一緒に食べるなんて予想もできなかったじゃない」 美実の言葉にミナと美樹が頷く。 「いつでも歓迎しますよ。うちでは無口な部下と口うるさい家政婦とどこかぬけてる中国人しか一緒に朝食は食べられませんから」 慎悟の言葉に麗菜が笑いながら慎悟をにらむ。事務所ではリーがくしゃみをし、群馬県では両刃がくしゃみをした。 「ところで、慎悟さんにお願いがあるんですが」 ミナがナプキンで口を拭きながら言った。 「なんです?」 慎悟が口のまわりにケチャップをつけて言った。 「今夜麗菜を借りたいんですが」 慎悟はその言葉を聞きながらオムレツをモグモグと食べている。 「今夜、4対4の合コンがあるんですが一人足りないんです。もちろんそれは今までのような危ない合コンじゃないんで大丈夫なんですが」 ミナの言葉に美樹と美実が頷く。慎悟はじっとミナを見ながらまだオムレツをモグモグ食べている。 「いいですか?」 ミナが聞く。慎悟はまだオムレツをモグモグ食べている。 「慎悟!」 麗菜が怒鳴ると慎悟がオムレツを飲み込んで頷いた。 「いいんじゃないんですか。麗菜は今プライベートが充実していないんでいつもピリピリしているんです。だから連れて行ってください」 慎悟はそう言うと自分が食べた分の皿を片付け始めた。この辺は麗菜のしつけが活きている。 「いいの、慎悟?」 麗菜が聞くが慎悟はただ頷いて台所に向かった。 「いい人なのね」 美実が麗菜に言うが、麗菜は何か腑に落ちないようだ。麗菜の顔は実の姉をそんな簡単に放り出していいのか、と言っているようだった。 |
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