章 過去

       



 「五年前だ。オレの親が死んだのは」
慎悟の言葉に月島は驚いた。月島は慎悟の親はどこかで別居しているくらいにしか考えていなかったのだ。
「まず、オレの父親は結婚するずっと前に家業をつがなかったせいで両親に勘当されていたんだ。それで28歳で父は結婚。だが結婚したんだけどその女はすでに男と娘がいた。そんなことを父は知らずに結婚したんだ。だがオレが生まれて三年でその男のことが父にばれた。だが父は母をせめもせず、その男のところで暮らしたいなら暮らしていいと言ったんだ。
だが、母は出て行かなかった。なんでだかよくわからないけどね。その男と娘とは会わないと父と約束した。男と娘は行方しれずとなった。まだ三歳だったオレはその話を盗み聞きしていて覚えてる。でも子供でしかもバカだったからぜんぜん意味がわからなかった」
「お父さんは何の仕事をしてたの?」
月島が口を挟んだ。
「警察だった。警視庁捜査一課課長」
「えらい方だったのね」
月島は正直に驚いた。
「それから二年、オレが五歳になって初めて事件を解決した。
そのとき、なぜだかわからないけど、父は母の昔の男に手紙を書いて母とやり直してくれといったんだ」
「どうして!?」
月島が突然立ち上がって聞いた。
「さあ。そのことでオレと母は父をせめたよ。理由を聞いても父は答えなかった」
「ひどいお父さんね」
「そんなことない!」
慎悟が怒鳴った。
「父は何かしら理由があったんだ。でもそれはいえないことだった。オレはいえないことを無理に言わせようとしたんだ!オレのほうがひどいさ」
慎悟はそういって上を向いた。
「オレが五歳のときに始めて事件を解決したときにどうしてそれを警察が信じたと思う?普通五歳の子供がいきなり事件を解決したなんていったって誰も相手にしないだろう。オレは警察である父に言ったからだ。父がいなかったら今オレはここにはいないんだ。父は決してひどい父ではない」
慎悟がそういってせめる目で月島を見た。
「わかったわ。ごめんなさいね。なにも知らないでせめちゃって」
慎悟はまた話し始めた。
「オレが初めて五歳で事件を解決。それで、政府が日本初の飛び級制度(スキップ)を用意して9歳で東京大学四年生までのぼったんだ。そんなときにある立てこもりの事件が起こった。
犯人はある高校に立てこもったんだけど生徒の協力で三十分もかからずに警察はその立てこもりの犯人を捕まえた。そのときも担当したのがオレの父だった。犯人は三人。父が一人でのりこんで捕まえてしまったよ」
慎悟が懐かしむように上を向いた。それは人が泣いたときに涙がこぼれないように上を向く動作に似ていた。
「父は捕まえた後、すぐに犯人を警察に連れて行った。そのときだよ。警視庁の玄関で犯人が言ったんだ。
『犯人はもう一人いる。そいつが主犯だ』
ってね。その言葉はオレも聞いていた。
ちょうど母と一緒に父に顔を出しにいったんだ。
そのとき、犯人が言っていた主犯が現れた。立てこもり事件の取材に来ていた記者の中から全身黒ずくめでヘルメットをかぶった一人の男が飛び出してきてふところから銃を取り出した。そしていきなり三人の犯人を撃ち殺したんだ。母と話していたオレの父は慌てて犯人を捕まえようとした。オレも一緒に行った。でも、その主犯はオレの父に銃を向けていた。そして、母から離れた瞬間、男は父を殺したんだ。オレは父に駆け寄った。母は人質に取られた。
オレがなんとか交渉しようとした。だが犯人は聞く耳を持たずに母は殺された。オレの目の前で。そして犯人は逃走。五年たった今もつかまっていないよ」
ずっと上を向いていた慎悟の目から涙がこぼれた。
「お母さんの昔の男の人は何か言ってきたの?」
何か言わなければならないけど、何を言っていいかわからなかった月島はとりあえずそう言った。
「手紙が来た。よかったらうちで暮らさないかって言われたけど断ったよ。その家には変な血のつながりがある姉がいるしね。」
「父方のお父さんは引き取ろうとしなかったの?」
「祖父は知らない。息子が死んだことは知っていてもオレの事は知らないんだ」
「なんで知らないの?」
「政府がオレの情報を抑えたんだよ。オレが東大に入った時点でオレの情報はほとんど機密になったんだ」
「そう・・・」
月島は少し黙って、
「あなたのお姉さんに会ったことはあるの?」
と、言った。
「無いよ、一度も。写真だけはあるけどね。オレがそう母の昔の男に言ったんだ。会わないほうがいいって」
「なんで?」
「オレのそばだとまたいつ危険にさらされるか、わからない。父と母のこともあったからその男も納得したよ」
「そうよね・・・。ところで、その立てこもられた高校って・・・」
「東京共鳴女子高校。ニュースで結構大きく報道されたから知ってると思ったよ。刑事が一人死んだことも報道されたんだけどね」
この学校は母子家庭や父子家庭の子供と親のために作られた学校だ。その女子高の生徒の親は八割が離婚している。
「私の通っていた高校だ・・・」
「あっ、そう」
慎悟は特に驚いた様子はなかった。
「私の母親は昔死んだの」
その言葉に慎悟はビクッと肩を震わせた。
慎悟はそんな彼女を見て複雑な表情をしていた。隠している事実がある。しかしそれを言っていいのかどうかわからなかったのだ。
「その三人の犯人は誰も見ていなかったの?」
長い沈黙のあと月島が言った。
「誰かがもっとしっかり犯人を守っていて、すぐにその主犯の男に気づいて慎悟のお父さんに伝えればよかったじゃない」
「見ていたさ。当時、父の部下だった刑事がね」
「じゃあその人が悪いんじゃない」
月島が少し八つ当たり気味にいった。慎悟はそんな月島の顔を真正面から見つめて聞いた。
「両刃が悪いって言うのか?」
「えっ・・・」
「そのとき父の部下だった刑事っていうのは石神両刃。今のオレの助手さ」
慎悟がうつむきながら言った。
「そんな・・・。じゃあ、あなたは自分の両親が死んだ原因を作った人を部下にしているの?」
「ああ」
「なんで・・・」
「オレが頼んだんだ。責任問題で懲戒免職をくらった両刃が自殺をしようとした。でもそんな両刃をオレは止めて、一緒に事件を解決していこうって約束したんだ」
「・・・」
月島は黙った。
「ごめんな。話がそれて。この事件とオレが急に頭が痛くなったのとどう関係しているかっていうとだな。
父と母を殺したその主犯をオレが途中まで追いかけたんだ。そのときに一度、追いついて、オレはそいつを捕まえようとして何度も殴りかかったんだが、すべてよけられた。でも、なんとか相手がかぶっていたヘルメットを思いっきり殴ったんだ。黒いゴーグルの部分に当たってゴーグルの部分が砕けた。そのとき、あいつは笑っていたんだ。そして、こいつはオレの何倍も強いことがわかった。攻撃はされなくても感じたんだ。その笑いからね。
そして、今日もあの男を前にした時、同じような感覚を覚えた。自分より何倍も強いって事を。それで両親が死んだときを思い出して頭痛がし始めたんだ」
「それが同一人物だったの?」
「・・・わからない。多分違うと思うけど。五年前の顔は中国人の男にみえた。でも今日は、顔は見えなかった。帽子を取って顔を見せられたけど、五階下にいたからわからなかった。最近視力が落ちてきたし。ただ、オレが英語でしゃべったら通じたようだったから外人だったと思う。もしかしたらアメリカの沖ノ鳥島問題推進派かもしれない」
「そう」
月島は少し残念そうだった。それは長い間見たことの無い犯人の顔をおがめたかもしれなかったからだ。
「よく話せたわね、慎悟。両刃には伝えていい?」
「あ〜・・・、いいよ・・・」
慎悟は一瞬悩んでそう答えた。
「さ、ルームサービスでも取って夕飯食べましょ。おなかへっちゃった」
そういって月島は電話をかけはじめた。
「何が食べたい?」
「麗菜と同じので良いよ」
そういって慎悟はベランダに出て行った。
月島はそんな慎悟をみてすこし首をかしげると電話をかけ始めた。
慎悟はベランダから外をみていた。
『仕事をサボって夕日をみるなんてはじめてだ・・・』
などと考えていた。
「慎悟・・・」
麗菜が受話器を置いていった。
「あなたのお父さんが、お母さんにまえの男のところで暮らしてかまわないって言ったのは、怪我をするかもしれないって思ったからじゃないの?」
「え?」
慎悟が部屋の中を見ると月島もベランダに出てきた。
「片水慎悟のははおやだと、いつか何かの犯人に人質に取られたり、殺されたりするんじゃない買ってあなたのお父さんは考えたのよ。だからお母さんに、前の男のところで暮らしてかまわないって言ったのよ」
そういった麗菜の顔は少し涙ぐんでいた。


「警察の情報が外にもれるということはありませんか?」
リーが沖縄料理店『ロイロイロイ』で総理が食事をしている部屋の前で両刃に聞く。
「その確立も皆無ではないな」
「じゃあ、危なくないですか?総理が泊まっているホテルの近くで理由も言わずに検問なんて」
「警察には一応総理の泊まっているホテルに怪しいやつが近づかないようにするのが目的というので理由は言ってもらっている。そんなこといちいち調べるやつもいないから安心しろ」
「でも・・・」
「良いから黙ってろ。考え事をしてるんだ」
「なにについてですか?」
「月島が言うには、彼女と慎悟がベランダに出た時丁度、あの男もベランダに出てきた。しかも銃を持って。そして慎悟の三階真下。偶然なのか」
「だからなにがですか?」
「リー、おまえはあの男が何であのホテルにいたと思う?」
両刃が我慢強く、ものわかりの悪いリーに教えようとした。
「それはやっぱり、沖ノ鳥島問題の推進派じゃないんですか?」
「なんでそう思うんだ?」
「なんでって・・・。やっぱり総理の泊まっているホテルにライフルなんかもっているなんて偶然じゃないと思うからです」
「おまえはオレの話を聞いていたか?」
「え?」
「もう一回言ってやる。『月島と慎悟がベランダに出た時、ちょうどあの男もベランダに出てきた。しかも銃を持って。そして慎悟の三階真下の部屋にいた』
「だから?」
「おまえは総理の泊まっているホテルに銃を持った男がいたのは偶然だとは思えないんだな?じゃあ、オレが言ったことは偶然だと思えるか?」
「そりゃ思いませんけど」
「そう。この二つの偶然とは思えないことが同じ場所で同時に起きたんだぞ」
「でも両刃さんが言ったことが偶然だということだってあるじゃないですか」
「確かにな。だが、おかしいじゃないか。もし総理をことを狙っていたんだとすればできる限り総理の近くの部屋に泊まらないか?ライフルをもっていれば少しは離れていたっていいができる限り、総理の部屋の横一列の部屋、たて一列の部屋にするだろう。リー、総理の部屋はどこだ?」
「ボクたちの左隣の部屋で、男の部屋がボクたちの右隣の慎悟さんの部屋の三回真下の部屋・・・」
「おかしいだろ?」
「じゃあ、両刃さんはこのことについてどう思うんですか?」
「あの男は慎悟を狙っていたんだと思う」
「まさか・・・」
「ホテルのフロントマンに聞いたんだが、あの男がチェックインしたのがオレたちがチェックインする十分前。ホテルのパソコンには、ホテルの外からのアクセス記録が一つあったそうだ。あの男がホテルのパソコンをハッキングしてオレたちの部屋の場所を見て、少し離れた部屋にチェックインした」
「でもボクたちがチェックインする十分前だったのになんでボクたちの部屋がわかったんですか?」
「警護の係長がオレたちのホテルの部屋を事前に予約していたんだ。予約ならどの部屋かもわかるだろう」
「なるほど・・・」
そしてリーは黙った。
「どうやって慎悟さんがベランダに出たときにちょうど男もベランダにでたんですか?」
「慎悟の部屋に盗聴器があったんだろう。」
「じゃあ、今も盗聴されてるんじゃないですか?」
リーが不安そうに聞くが両刃は澄まして答えた。
「大丈夫、慎悟だってバカじゃない」
この言葉を言うときに両刃は顔をしかめた。
「バカじゃないって?」
「とっくに見つけているさ。あいつは盗聴を一番嫌っているから。盗聴された時点で気づいたと思うよ」
「そんな・・・、地雷探査機じゃあるまいし」
リーがあきれて言うが、
「今のはあんまりいいたとえじゃないぞ。地雷探査機が本当に正確ならクリム=スーンは今右手右足を失っていないよ」
「誰ですか、それは?」
「1995年に地雷の撤去作業中に触雷して右手右足を失った人さ。長野オリンピックで聖火ランナーを勤めたな」
「有名ですか?」
「常識だ」
「ボクにとってはまったくわかりません」
「知識が足りないのだよ」
リーは無視した。
「動機は何なんですか?」
リーが少し黙ってから聞いた。
「なんの?」
「男が慎悟さんを狙う動機です。ボクにはまったくわからないんですが」
「動機か・・・。予想でしかないんだが、過去に慎悟に恨みを持ったもの。もしくは慎悟がいると自分の犯罪の邪魔になると思ったものかな。そういう点では、やはり沖ノ鳥島問題推進派が、総理を襲うために邪魔な存在というのこともあるかもしれないな」
「なるほど」


ルームサービスでとった食事をしながら慎悟は両刃とまったく同じ推理を言った。月島は耳だけこっちに向けているが料理を片付けるのに必死で聞いているのかどうかは定かではない。
月島が勝手に頼んだのは、ゴーヤサラダ、ソーミンチャンプルー、ナーベーラーンブシー、クォーターサラダ、シェイチオソーメン、そのなかにカレーが異色のようにおいてある。
「よくこんだけ頼んだな・・・」
慎悟が半分あきれながら言った。
「おなか減ったって言ったでしょ」
「そりゃいったけどね・・・」
慎悟はそういってからレシートを見た。
『この料理の名前の中に一つくらいでたらめに名前をつけたのがありそうだな・・・』
そう考えてから皿を見ると食べ始めて10分だというのに全て大盛りで盛られていた料理が半分は消えていた。
「よくそれだけ食って太らないね・・・」
慎悟は月島のスリムな体を見ながら言った。
「ほっといて」
月島はそういいながら切ったはずなのにばかでかいキャベツを口に入れた。
『いままでこの女(月島)と付き合ってきた男はみんな見かけに騙されたんだろうな・・・』
慎悟はそう考えてカレーを食べ始めた。
「ちゃんと野菜も食べなさいよ」
サラダばかり食べている月島がいった。
「肉を食えば?」
「ほっといて」
『なんだかなぁ・・・』
慎悟はため息をついてまた食べ始めた。
「あー、食べた、食べた」
腹を、綿をたっぷりいれたクッションのように膨らませながら月島が言った。
「オレの推理をちゃんと聞いてた?」
慎悟が半分あきれて半分感心しながら言った。
「ええ、あの男はあなたを狙っていたんじゃないのかっていうんでしょ?」
月島が爪楊枝をつかんで言った。
慎悟の半分あきれていた部分が感心に変わった。ただ一生懸命料理を片付けていただけのように見えたが、しっかり人の話も聞いていたのだ。
「でも、盗聴器が隠されてるって本当?」
「たぶんな。これから見つけようと思ってる」
その言葉を聞いて月島は爪楊枝を床に落とした。
「まだ見つけてないの・・・?」
「ああ」
「どこに隠してあるかの予想は?」
「すこしくらいは。ベッドのヘッドボードのところ、ベランダの窓のカーテンのところ、あと風呂」
「うそ!」
月島が立ち上がった。
「私はもうその盗聴器が仕掛けられているかもしれないお風呂に二回も入ったのよ」
「べつにいいじゃねえかよ・・・」
慎悟が月島が落とした爪楊枝を拾いながら言った。
「べつに独り言ごちゃごちゃ言ってたわけじゃあるまいし」
「お風呂で体洗ったりしてる音を聞かれたのよ」
「盗聴であって、盗撮じゃねえんだから・・・」
「女の子は嫌なものなの!」
『23歳のくせによく言うよ・・・』
慎悟はそんなことを考えたが、日本全国のOLにこの言葉を言ったら八割は慎悟の敵になるだろう。
「はやく探しなさい!」
「へいへい」
慎悟はそう言ってベッドのヘッドボードに向かったが、
「先にお風呂!!!」
月島がそう言ってにらんだ。
慎悟は肩をすくめると風呂に入って行った。
「ちゃんと探してね!」
「わあったよ、うるっさいな」
慎悟はそういって探し始めた。
ほんの一分ほどでシャンプーなどをいれてある棚の中でみつけた。
見つけるとそっと取りはずしハンカチでつつんだ。
「あったよ」
風呂から出ると小さい声で言った。
「黙っててくれ。声を拾われるとオレの楽しみが消えるから」
慎悟は怒鳴ろうとした月島を手で制してテーブルの上に置くとベッドのヘッドボードに向かった。こっちはヘッドボードの裏に設置されていた。
それもテーブルのハンカチの上において、ベランダの窓に向かった。カーテンの上の止め金に設置されていた。それを取るとハンカチの上におき、三つ全てを一枚のハンカチで包んだ。
「なにするの?」
月島が小さい声で聞いた。慎悟はバッグからダンベルを取り出した。
「なに持って来てるのよ・・・」
月島があきれていった。
「こういう時のためさ」
そしていきなりダンベルを振り上げてハンカチの上に叩きつけた。
パキリ!
乾いたせんべいを割ったような音がした。
「なにしたの?」
「簡単なことだよ」
慎悟がハンカチを開いて盗聴器の破片をゴミ箱に捨てた。
「相手が盗聴していたら壊れる瞬間に雑音が盗聴器に入る。たぶん、オレたちが静かにしていたから聴いている側の音量は最大にしてあったはずだ。そこにいきなり雑音が入る」
「それで?」
「寝ていたらいきなり耳元で怒鳴り声がするような感じになるのさ」
「よくそんなことかんがえるわね・・・」
月島があきれていった。
「早くボーイをよんで皿を片付けてもらおう」
慎悟は伸びをして言った。
「そろそろ風呂にはいらねえとな」
「両刃たちの部屋で入りなさいよ」
「なんで・・・」
慎悟がわけのわからないという顔で聞いた。
「年上の女の人が入ったお風呂に入れるの?」
「入れるよ・・・」
慎悟が首をひねりながら言った。
「とりあえず、私が先に入るから」
「なんで!?さっきも入ったんだろ?」
「いいのよ、知らなくて」
慎悟は肩をすくめた。ただ、頭の中では、
『この女を仲間に入れたのはやっぱり間違ってたのかな・・・』
と考えていた。
慎悟はベランダに出た。太陽は完全に沈み、海は遠い水平線まで真っ暗になっている。
慎悟は男がいた階を見た。電気はついていない。
そして部屋の中を見る。月島が風呂に入ったのを確認すると、急いでベランダを乗り越えて飛び降りた。
朝と同じように下の階のベランダに飛び降り、もう一度飛び降りて、ベランダから下に誰もいないのを確認すると男がいたベランダに飛び降りた。
窓は鍵が閉まっていた。しかし、慎悟はにとって窓の鍵を開けるのは別にたいしたことではなかった。
慎悟はかばんから出して持ってきた針金のハンガーをだした。そしてねじってある部分をほどく。
そして窓の細いすきまにいれてフックの部分をかぎのつまみにひっかける。そして引くとつまみが上にあがって鍵が開くという仕組みだ。
慎悟はこれを両刃に教えてもらった。言葉だけで教わったので、この文章同様に説明が難しかったので、慎悟も理解するのが難しかった。
鍵が開くと堂々と部屋の中に入った。慎悟はハンガーをかばんに入れて来たということを月島に知られたら怒鳴られるなと思った。
部屋の中央に来て部屋の中を見回した。両刃が木古内に男のことを伝えてから木古内が部屋の中をしらべたのだろう。荷物らしいものは無かった。もしかすると、男も荷物らしい荷物を持ってきてはいなかったのかもしれない。
慎悟は腕を組んだ。そして携帯をとりだすと木古内の携帯にかけた。
トルゥゥゥゥゥゥ、ガチャ
「もしもし、警視庁捜査一課の木古内です」
「おまえ、電話に出るときいつもそう言うのか?」
慎悟があきれながら言った。
「慎悟か!?なんでオレの携帯の番号を知ってんだ?」
「いいから」
「なんでだ!?」
「今はインターネットで何でもわかる」
電話の向こうで両刃の隣にいた木古内は背中に冷たい汗をかいた。
「そんなことより聞きたいんだけど。あの男がいた部屋を調べたのか?」
「ああ」
「荷物は持って言ったか?」
「いいや」
「一つも?」
「荷物というか、ライフルはとりあえずオレが安全に部屋に保管してある。でも荷物じたい何も無かったぞ」
「かばんもか?」
「ライフル以外は何もおいて無かったよ」
「そうか・・・」
「いきなり電話してきてそれだけか?」
「ああ」
慎悟は上の空で答えた。

電話の向こうで話し声がして両刃が出た。
「慎悟か?」
「やぁ、両刃じゃないか」
「今の木古内の話でわかったか?」
「ああ」
「荷物が無いなんておかしいじゃないか」
「ああ。ライフル以外の荷物が無くて、かばんもないなんていうのはおかしい」
「ああ」
「あの男はどうやってライフルをこのホテルに持ちこんだんだ?」
「ひっかかるな」
「すぐわかるけどね」
「そうか?」
「もちろん」
慎悟の自信にあふれた声に両刃は電話の向こうでうなずいて、電話を切った。
「さてと」
慎悟は携帯をポケットにしまって考えた。
「木古内が調べたんじゃ、かばんが見つからないというのもありか」
そして探し始めた。
三分ほどでアタッシュケースがトイレの棚から見つかった。大量のトイレットペーパーの裏に隠されていた。
慎悟はアタッシュケースをとりだすと便器に座って開けてみた。このアタッシュケースはライフルを分解して入れられるようになっている。慎悟はよくケースを観察した。そして二層になっているのがわかった。一層がライフルを入れるところだ。慎悟は二層を開けてみた。そこには大きい角封筒が二つと拳銃が入っていた。
そのとき、あの頭痛がまた慎悟を襲った。
「ばかな・・・」
慎悟はそういって頭を抑えた。

 「慎悟ったらどこ言っちゃったのかしら」
月島が風呂から上がっていっ
た。
「はやくお風呂に入らなきゃ」
月島はそういってベッドに座った。そしてベランダの窓が開いていることに気づいてベランダに出てみた。
「ここにもいない・・・」
少し月島は不安になった。
「まさか!自殺!!!」
この女(月島)はばかな事を考えるものだ





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